令和元年司法試験刑法再現答案

 

 設問1

1.ダミー封筒とのすり替え行為について、詐欺罪(刑法(以下略)246条1項)または窃盗罪(235条)の成否

(1)上記行為について詐欺罪と窃盗罪のいずれが成立するかは、Aに交付意思があったかによる。すなわち、詐欺罪は瑕疵ある意思に基づいて占有移転を行う交付財である一方、窃盗罪は、意思に反して占有移転する奪取財であるからである。

(2)まず、本件キャッシュカード等は、それ自体所有権の対象となり、かつ預金を迅速かつ確実に得ることができる財産的価値を有しており、「財物」(246条1項)ないし「他人の財物」(235条)にあたる。

(3)「欺いて」(246条1項)とは、交付の判断の基礎となる重要な事項、すなわち財産的損害に関する事項を偽ることをいうところ、これは交付行為に向けたものであることを要する。そこで、交付者に、財物を自己の占有外に移転する意思があったかにより判断する。

本件では、甲は、ダミー封筒を準備したうえ、本件キャッシュカード等を封筒にVに入れさせた上ですり替えているところ、すり替えはAが印鑑を取りに行っている間に行っており、Aはキャッシュカード等を自己の占有下で保管する意思を有しているから、財物を占有外に移転する意思はない。

したがって、交付行為に向けられた欺罔行為があったとはいえず、詐欺罪は成立しない。

(4)他方、甲は本件キャッシュカード等をVの不在時にダミー封筒とすり替えており、このような軽量物は自己のバッグ内に入れた時点でAの黙示的意思に反してその占有を移転させているといえ、「窃取」したといえる。

(5)故意及び不法領得の意思に欠けることもなく、甲には窃盗罪が成立する。

設問2

1.事後強盗罪の共同正犯(60条、238条)が成立するとの立場

(1)乙は甲と事後強盗の共謀をしており、共謀に基づいて下記の脅迫を行っている。なお、乙は甲が万引きをしたものと勘違いしているが、実際の甲の行為とは構成要件内で符合しており、因果性に欠けるとも錯誤があるともいえない。

(2)238条の趣旨は、窃盗の機会に強盗を行うことが強盗と同視できる点にある。そこで、同条の「脅迫」とは、客観的に犯行抑圧に至る程度の害悪の告知が、窃盗の機会、すなわち、その現場か継続的延長でなされることを要する。

本件では、甲及び乙は2対1の状態で、乙が刃体10センチメートルという殺傷力あるナイフをCに示して「殺すぞ」と申し述べており、これは強度の態様による侵害である。また、Cは片手がふさがっている状態であり、2人に対して抵抗することは難しい。

したがって、窃盗現場で客観的に犯行抑圧に至る程度の害悪の告知がされたといえる。

(3)乙には、「逮捕を免れる」目的が認められる。

(4)身分とは、犯人の一定の犯罪に関する人的関係たる特殊の地位又は状態をいう。また、真正身分と不真正身分の区別は明確であることから、65条1項は真正身分犯の成立と科刑を、65条2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めていると解する。なお、条文が共同正犯を排除していないこと、共同正犯であっても法益侵害可能であることから、65条の「共犯」には共同正犯も含まれる。

本件では、「窃盗」であることは、事後強盗罪において法益侵害を基礎づける真正身分であり、窃盗行為を行っていない乙についても、65条1項により、事後強盗罪が成立する。

(5)したがって、乙には事後強盗罪の共同正犯が成立する。

2.脅迫罪の共同正犯が成立するとの立場

(1)事後強盗罪は財産犯であり、窃盗行為と脅迫行為の結合した犯罪である。

本件では乙は実行行為の途中から犯行に関与したといえ、承継的共同正犯の成否が問題となる。

(2)共同正犯の処罰根拠は、相互的意思連絡の下で結果に対して因果性を与える点にある。そこで、すでに終了した行為については因果性を与えることができず原則として承継的共同正犯は否定されるが、例外的に先行行為の結果を積極的に利用し結果に対して因果性を与えうる場合には、肯定すべきである。

本件では、すでに甲は窃盗未遂罪の結果を生じさせており、乙はもはやこれに対し因果性を与えることはできないから、承継的共同正犯は成立しない。

したがって、事後強盗罪の共同正犯は成立しない。

(3)他方、上述の通り乙はCに対し害悪の告知を行っており、脅迫罪の限度で共同正犯が成立する。

3.私見

(1)事後強盗罪は結合犯であると解する。なぜなら、事後強盗罪は第一次的には保護法益を財産としていることから、窃盗は身分でなく行為であるといえるからである。また、窃盗の既遂未遂によって事後強盗罪の既遂未遂が決まることからも、窃盗が実行行為の一部であることがうかがえる。

(2)したがって、乙には脅迫罪の共同正犯が成立することとなる。

設問3

1.正当防衛による説明

(1)丙はDの生理的機能を損なう「傷害」結果を生じさせたことについて(204条)、正当防衛(36条1項)が成立しないか。

(2)「急迫不正」とは、違法な法益侵害が現在しているか間近に押し迫っていることをいう。

本件では、甲がDに向かってナイフを突きつける強盗行為をしており、違法な法益侵害が現在しているといえる。

(3)「防衛するため」とは、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態の下で防衛行為を行うことをいう。

本件では、丙はDを助けようとしているのであり、これをみたす。

(4)「やむを得ず」とは、手段として必要最小限であることをいう。

本件では、ボトルワインを投げる行為は取りうる唯一の手段であり、これをみたす。

(5)説明の難点

もっとも、障害結果はDに生じている。正当防衛は不正対正の関係にある者同士において認められる違法性阻却事由であり、正当防衛の成立は困難である。したがって、正当防衛は成立しない。

2.緊急避難による説明

(1)上述と同様に「現在の危難」は認められる。また「避けるため」も同様に認められる。

(2)説明の難点

ア 「やむを得ず」とは、手段として必要最小限であることに加え、法益が均衡していることも含む。

本件では、甲が行おうとしているのは強盗行為であり、保護法益は第一次的には財産権である。他方、丙の行為はDの身体を侵害するものであるから、法益が均衡していないとも思える。

イ もっとも、甲はDに対し「本当に刺すぞ」と怒鳴り、レジカウンターに身を乗り出して殺傷力あるナイフを胸元に突き出している。そうだとすれば、Dには生命身体の危険が生じているのであり、侵害法益は生命身体でもあるといえる。

したがって、法益の均衡が認められ緊急避難が成立する。

ウ また、仮に甲にDを刺す意図がなかったとしても、丙としてはDに生命身体の危険が生じることを認識しており、誤想避難が成立する。その場合には、丙には違法性阻却事由の錯誤があり、反対動機形成の機会がないため、責任故意が阻却され傷害罪は成立しない。

(3)以上、いずれにしても丙に傷害結果に対する責任が生じないと説明できる。

以上

コメント

司法試験受験翌週中に作成したため、再現度は80%以上です。6枚ほど。

学説対立問題はやめて……そういう勉強してきてないので来年以降も苦しい戦いになりそうです

設問1について

ATMの引き出しについては銀行の事実上の占有侵害のため何も書かなかったのですが、実はここで10分ほど悩んでしまいました。

というのも、昨年の予備口述刑事(私の受けた日ではない方)で窃盗の保護法益は所有権だ(占有の裏側にある所有権も保護しているんだ)という問題が出たと5chで見た記憶があったからです。

そこで現場でも「うーん、たしかにローでも窃盗の保護法益は所有権と事実上の占有って習ったな…事実上の占有は銀行支店長にあるな…でも法律上の占有はVにあるよね……そもそもお金って占有と所有が一致するんだっけ…預金だとどうなるんだっけ…わからなくなってきた……。」ということでスルーしました。

積極ミスをすること必死だったので、書かないという選択でよかったです(そういう意味で民法の失敗に学べました)。

設問2について

 H30の形式踏襲されてますけど、知識面はともかく、形式面でも何をどの程度書けばいいのかのノウハウがまだ受験生に蓄積されていないような気がします。

私は知識面がやばいので、私見がスカスカです。理由付けも勘だし……。

設問3について

わからん。正当防衛の記述とかおそらく時間の無駄ですね。

誤想防衛かあ…判例知りませんでした