時間のない人向けの予備試験論文後から口述試験までの手引き
はじめに
私は昨年予備試験論文を初めて受験しましたが*1、全く勝手がわからず、論文発表後口述の準備でかなり焦りました。
社会人兼業受験生や、ローの課題に追われて時間をとれない専業受験生の方に向けて、もっとこうしておけばよかった…ということを何番煎じかわからないもののまとめておきますので、参考にしていただければ幸いです。
口述1位で受かりたいんや!みたいな方には全く意味のない記事です。時間がない!一日2時間勉強できればいいほう!!とにかく受かればいいんや!!という方向けです。
基本戦略
皆さんは口述再現を見たことがあるでしょうか。
論文合格後では予備校の口述模試に申し込む、辰巳の赤本青本を買うなどすれば手に入りますが、ネットで公開してくださっている方がいましたので私はそれを論文後に見ていました。
口述試験の流れはだいたい次のような感じです。いずれかの科目で法曹倫理が聞かれます。
(民事系)
訴訟物・趣旨・KG→保全→抗弁→立証方法・手続
(刑事系)
構成要件解釈→刑事手続
それほどサンプルがないので断言はできないのですが、口述再現(不合格の方)をみていると、民事系では訴訟物・請求の趣旨・請求原因事実で、刑事系では各論構成要件の解釈で躓くと、試験官に口述を通して厳しい追及を受け、点数が伸びにくい傾向にあるように思われます。これはいずれも試験の前半に聞かれる事項です。
他方、試験後半に聞かれる手続的な部分については上記の部分さえ無難にこなせていれば、なんとか誘導してもらえ、それほど悪い点にはならないようです。
そこで、基本戦略として、民事系では訴訟物・請求の趣旨・請求原因事実を、刑事系では各論構成要件を重点的に勉強することをおすすめします。
8月、9月にやっておくと楽なこと
私はこの時期2chを見て一喜一憂していましたが、反面教師にしてください。論文合格後口述までの2週間であまりにやることが多くて泣きそうになりました。
民事系では、大島本をまとめる作業をするとよいと思います。
私は以下のように各訴訟物・請求の趣旨・ブロックダイアグラムをA4で20ページほどにまとめた資料を作り、ひたすら暗記していました(暗記はパワーです)。
◎例1:貸金返還請求訴訟及びその附帯請求
請求の趣旨:被告は原告に対し、500万円、これに対する平成24年2月11日から平成25年2月10日までの年5分の約定による利息及びこれに対する平成25年2月11日から支払済みまで年1割5分の割合による金員を支払え。
訴訟物:消費貸借契約に基づく貸金返還請求権、利息契約に基づく利息請求権及び履行遅滞に基づく損害賠償請求権
①Xは、平成24年2月11日、Yに対し500万円を弁済期平成25年2月10日、利息年5%、遅延損害金年15%の約定で貸し付けた。 ②平成25年2月10日は経過した。 ※利息は到来でよいが、遅延損害金は経過が必要 |
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◎例2:保証債務履行請求
請求の趣旨:被告は原告に対し、500万円を支払え。
訴訟物:保証契約に基づく保証債務履行請求権
※主債務に利息や遅延損害金がついていても、447条1項で訴訟物は1個である。
①Xは、平成24年2月11日、Aに対し500万円を弁済期平成25年2月10日の約定で貸し付けた。 ②XとYは、同日Yが①の借入金債務を保証する旨合意した。 ③Yの②の意思表示は書面による。 ④平成25年2月10日は到来した。 |
(主債務についての抗弁) (-消滅時効) ①平成29年2月11日は経過した。 ②Yは、平成29年3月1日、Xに対し、①の事項を援用するとの意思表示をした。 |
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(弁済拒絶) ①相殺・取消・解除の原因事実 ②①の限度で本件保証債務の支払いを拒絶する。 |
※保証人は120条の取消権者ではない。 取消しの抗弁に対しては、449条により保証人の悪意が再抗弁となる。 |
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(個人保証) 主債務は、Aが営む饅頭屋の営業資金として貸し付けられたものである(465条の6第1項) |
YはAと共同して事業を行う者である(465条の9)→これはせりあがる(商503)大島p226参照。 ※その他、公正証書による場合(465条の6第2項)などがある。 |
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(情報提供義務) ①主債務は、Aが営む饅頭屋の営業資金として貸し付けられたものである。 ②Aは本件保証契約に先立ち、Yに対し「Aが所有する甲土地(評価額1000万円)についてXのために主債務の抵当権を設定する」旨の情報を提供したが、Aは当時甲土地を所有していなかった。 ③Yは②情報から、甲土地について主債務の抵当権が設定されるものと誤認し、それによってXに対し保証契約の申込み(承諾)の意思表示をした。 ④Xは、AがYに対し②の事実と異なる情報を提供したことを知っていた。 ⑤Yは平成25年2月17日、Xに対し本件保証契約を取り消す旨の意思表示をした。 |
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改正法向けに最近修正したのですが、間違ってたらすみません。あとエクセル作りなおすのも面倒なのでWordの表をそのまま貼り付けました。見づらくてすみません。
こんな感じで20ページほどにまとめておくと、持ち運びに便利です。試験会場にも民事系はこれしか持って行っていません。
また、まとめる作業をすることにより民法や民訴法の知識がつくので、択一や論文の勉強にもなります。要件や論点落としが減ります。私は民法択一が60/75くらいだったのですが、予備口述を経てコンスタントに65-70/75がとれるようになりました。民訴もゴミクズレベルから脱却できました。
刑事系は、お持ちの刑法の基本書を通読しておくとよいと思います。私はローで使用していた基本刑法を読んでいました。
また、可能であれば刑事手続もさらっと把握しておくとよいでしょう。入門刑事手続法はとっても良いものです。
もしお金に余裕があれば、辰巳の青本・赤本を買って、過去問を読んでみてください。落ちたらお金の無駄と思うかもしれませんが、口述の試験がばっちりな人は民法・民訴・刑法・刑訴の基礎がばっちりになりますので、翌年の論文にも効果があります。
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論文発表後
発表当日中にやること
辰巳に鬼電してください。他の予備校はネット申し込みができ、比較的余裕があるのですが、辰巳だけは電話か直接校舎で申し込みだったと思います。
私は発表PDFを見るのが5分ほど遅れたので、それから電話したのですが、18時すぎまで一切つながりませんでした。可能であれば直接校舎にいきましょう。
社会人にはとれない選択肢ですが…。
口述模試の重要性
口述模試は可能な限り申し込むべきだと思います。
予備校各社がヤマをあててくることはそれほどないのですが、予備口述は異常な緊張状態で行われる試験です。練習は多すぎるということはありません。*2
また、口述のフィードバックをもらうことで、勉強が進みます。
私は伊藤塾と資格スクエアに申し込みましたが、もっと申し込んでおけばよかったなと思っています。特に資格スクエアは若い先生が面談してくださったのですが、フィードバックがとても丁寧でうれしかったです。*3
私はこれに加えて、知り合いの予備合格者に数回面接練習をしてもらいました。
やることを絞る
さて、口述模試以外では、手に入れた口述再現集をひたすら読むこと以外は
すでに準備した大島まとめや、刑法・刑事手続をひたすら見直します(暗記は正義)。
これだけです。私はこれだけしかしていません。
時間のない人は変にいろいろなこと、特に細かな知識を広く浅くやろうとすると、何も見につかずに2週間を空費してしまうおそれがあります。やることを絞って集中しましょう。
口述当日
試験会場まで
私は東京在住のため、自宅から新浦安に向かいました。
伊藤塾が試験会場近くに自習会場を設けているので、そこで勉強すると良いです。
試験会場についた後は勉強はできないと思った方がいいでしょう。
受付をするまで自分がいつ受験できるかわからず、長丁場になる可能性があるため、おにぎりやチョコ、飲み物を近くのファミマで買ってから向かいましょう。
黙らないこと
体育館のようなところから発射台へ行き、呼ばれると小さな部屋に入り試験が始まります。聞き取りやすい声でゆっくりしゃべりましょう。論文合格者のためにプロが無料で指導してくれるボーナスタイムだと思ってください。
試験委員の人は誘導してくれます。味方です。「こいつを落としてやろう」と思っていないはず。しかし、誘導するにはこちらが何かを発言する必要があります。黙っていると誘導のしようがありません。「とにかく法的コミュニケーションができればOK」くらいに思っていれば良いと思います。
1日目終了後と2日目
私は2chを見てしまったのですが、あまりおすすめできません。一切のことが手につかなくなるからです。
基本事項だけを確認してさっさと寝てしまうのが良いと思います。
2日目終了後にはすさまじい全能感が得られます。私は司法試験後にこれほどの充足感は味わえませんでした。それほどの異常な緊張状態が2週間にわたって続く試験です。
口述試験が終わったらウィンタークラークなどもはじまりますが、まずはゆっくり休んで自分をねぎらってください。