時間のない人向けの司法試験・予備試験シリーズ ~勉強方法について(総論②基本方針の理由)~

 

前回のおさらい

前回は抽象的な基本方針(以下)をお示ししましたが、はたして「典型論点」、「基本的知識」、「有益だが必須ではない勉強」とは何か、お示しします~。

1-1 基本方針

1-1-1 典型論点の精度を高める(積極的方針)

過去問を勉強の中核に据え、典型論点にかかる基本的知識を確実に習得すること

1-1-2 目的達成に必要でない勉強をしない(消極的方針)

司法試験合格という目的に対して、有益だが必須ではない勉強をしないこと

 

 

1-2 基本方針の理由

1-2-1 私の考える司法試験

司法試験は、2時間という短い時間の中で、長文の事例を読み、結論を決めて自分なりの見解を試験委員に対して示す試験であり、基本的知識の理解(実質面)と、答案への表現の巧拙(形式面)の合計ポイントにより合否が決まる点取りゲームです*1が、試験前日までに合否はかなりの割合で決まっているように思われます。*2

ポイントに影響を及ぼす要素は前日までの積み上げと当日の不確実性であるところ、上記実質面、形式面のいずれについても、当日の体調などの不確実性はそれほど結果に寄与しない一方で*3、前日までの積み上げ(基本的知識の精度)が答案に大きく影響を与えると考えているからです。

 

1-2-2 典型論点の焼き増し出題による実質面への影響

現在の司法試験は新司法試験、旧司法試験、予備試験の焼き増し問題(以下、過去問で複数回出ている問題を私は「典型論点」と定義します)が相当程度出題されています。

そして、受験生は過去に出た問題の対策はそれなりに取り組んでくる傾向がありますので、典型論点はそれなりに準備してきます。

したがって私は、典型論点を確実に習得することが合格レベルに乗るための必須条件と考えています。

確実に習得するとは、典型論点に関する条文及びその趣旨、規範定立、あてはめまでの筋(これを私は「基本的知識」と定義します)を手が覚えている状態をいいます。

 

1-2-3 ノウハウ蓄積による形式面への影響

また、近年では、試験委員から相当程度詳細な「出題の趣旨」・「採点実感」が公表されることで受験生や予備校において模範的な解答の型に対する予見可能性が高まり、形式面においても受験生側のノウハウの蓄積がみられます。*4

私の個人的な感想ですが、上位答案集をみると、少なくとも新司法試験の始まった平成18年ころよりも平成28年以降のものの方が形式面で上位答案は似ているように感じます。

したがって、受験生の多くは形式面においても典型論点の書き方を準備する機会が与えられているといえます。

 

1-2-4 非典型論点への対応

ところで、司法試験には典型論点とはいえない未知の問題も必ずと言っていいほど出題されますが、受験生の多数は初見の問題は十分に書けないことが多いため、非典型論点の出来不出来は合否にそれ程影響しません。*5

すなわち、多数の受験生は典型論点(+プチ応用問題)の演技の巧拙を競っており、この点が合否に大きな影響を与えていると私は考えています。*6

 

1-2-5 まとめ

典型論点暗記のすすめ

すでに述べたとおり、典型論点は、過去問で書くべき内容や書き方が一度出ているため、練習さえ積めば思考時間をかけずほぼ自動筆記で答案を作成することが可能となる「サービス問題」です。

したがって、私は基本方針として過去問で出た典型問題にかかる基本的知識を確実に習得し(暗記はパワー!)、答案に示す練習を何度も積んでおくこととしました。(これを私は「必須の勉強」と定義します

典型論点の処理方法を覚えてしまうと、思考時間や労力の節約になること(頭でなく手で書いている感覚)と、試験委員がどこに時間をかけてほしいかが見えてくるという利点があると思います。

非典型論点について

他方、非典型問題(典型論点でない問題をいいます)は、当てようと思ってヤマを当てられる可能性が低く、マニアックな勉強をしがちになることも多いことから、勉強時間や労力に対するパフォーマンスが高くありません(私は、細かい知識を突き詰める勉強を「有益だが必須ではない勉強」と定義します*7

時間は有限であるところ、有益だが必須ではない勉強に取り組むことで、必須の勉強に割り当てる時間・労力が減少するため、典型論点が問題に占める割合が多い司法試験では、必須の勉強に特化している受験生に後れをとる可能性があります。

有益だが必須ではない勉強は、将来よき法曹となるためには必須(?)かもしれませんが、少なくとも司法試験に合格するためには目的必要性を欠きますので、まずは必須の勉強に集中するのがよいのではないかと思っています。*8

不安かもしれませんが、司法試験は点取りゲームと割り切って、有益だが必須でない勉強はやらない決断をしてください、マニアック問題よりも典型論点が出てくる可能性が高いため、それだけで合格が近づきます。*9

 

上記は本当か?(勉強方法の反省) 

さて、このような基本方針のもと勉強を進めてきたのですが、果たして本当に典型論点をしっかりと習得する必要はあるのでしょうか…。そう思わされたのは以下のあいかわさんのツイートです。

 うーん、あいかわさんの言うことならそうなのかもしれない…私もブログめちゃ読んで勉強させてもらってるし…(妄信)。

たしかに、司法試験の問題が解けるようになるには、司法試験の問題を解くのが最短距離だと思いますし、思い出してみると典型論点をスタンダード100を使って覚えていたとき、司法試験の問題を見ても正直さっぱりわからないなあと思うことが多かったかも…。

※追記

よく読むと私に勘違いがありそうです。前提として私は典型論点(問題)=過去問(新旧司法試験・予備試験)で複数回出た問題のことを指していますが、あいかわさんはおそらく典型論点≠司法試験の問題という括りのようです(たぶん)。なので、司法試験の過去問使って勉強したほうがいいですよ、という点では同じではないかと思います。

 

私は結構愚直な(というか残念ながらあまり地頭がよくない)人間なので、典型論点の基本的知識が無意識レベルで身についていないと応用はできないような気がする…。やはり典型論点は一生懸命やってよかったと思います。もちろん、司法試験に出なそうなところはやりませんでしたけどね~。*10

他方、予備試験では典型論点がそのまま出たりするので、それを知らないと致命傷になりかねない気がします。ですので少なくとも予備試験合格のためには典型論点しっかりやっといた方がいいと思いますよ!*11

 

次回はもう少し具体的に何をしたかをお示しします。

それではまた~。

 

今回の大事なポイント

典型論点を勉強しよう(暗記はパワー!)

*1:法務省公表「司法試験の方式・内容等の在り方について」において、「論文式試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な学識並びに法的な分析,構成及び論述の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが……」とされています

*2:他方で、順位は当日の問題との相性や閃きも大いに結果に寄与すると思います

*3:インフルエンザで試験会場に行けないなどの場合は別ですが…。

*4:これを書くときはこれもセットで書いてね、これを書く前にそれを書くのはおかしいよね、みたいな答案の流れです。例えば原告適格を書くときに、まず個別法令みたあとで、個別的利益を切り出す、みたいな答案の流れです。

*5:もっとも、それが完全な現場思考問ではなく、覚えている規範を趣旨から展開すれば解けるプチ応用問題である場合には、この限りではないと思いますが…

*6:個人的な意見ですが、あまりに難しい、あるいはマニアックな問題は大虐殺が起きるため、かえって試験委員は採点に困るのではないでしょうか。試験委員が望むのは受験生の採点分布が美しいベル型カーブを形成することではないかと思います。平成18年から数年間の問題と近年の問題を見比べると、試験委員の受験生への期待度は年々下がってきているのでは…もとが異常だったと思いますが。

*7:非典型論点はあまり受験生の出来がよくないので、趣旨から考える、三段論法を厳守するなど形式面の遵守だけで典型問題よりも楽に点をとることができる側面もありますが…。

*8:もっとも、すでに必須の勉強を完璧にしたいわゆる上位層を除きます。

*9:一般に司法試験を受けようとする方は頭がいいと思うのですが、趣旨・実感に完璧に対応できる受験生は皆無であり、趣旨・実感に書いてある「…はほとんどいなかった」などの記載を読んで、そのような部分も勉強しなければならないと誤解し、マニアックな勉強に突き進んで自滅する方が多いように思います。

*10:大学受験のときにいきなり難しい数学の問題集に取り組んで泣いた記憶が…。

*11:例えば、私の受けた平成30年ですが、特に民法の設問2とかは旧試そのままですよね