時間のない人向けの司法試験・予備試験シリーズ ~勉強方法について(総論③具体的方策(総論おわり))~

 

前回のおさらい

前回は基本方針の理由をお示ししましたが、じゃあ結局何をすればいいのか、よくわからないまま終わってしまいました。総論なので仕方ないところもあるのですが、もう少し具体的な方策をお示ししたいと思います。

1-3 具体的方策

抽象論が続いてしまいましたが、これから勉強をはじめるにあたって具体的に何をすべきか、考えてみます。

1-3-1 アウトカムから考える

まずは、最終的なゴールです。

いうまでもなく、受験生の望むアウトカムは司法試験合格です。そして、司法試験の問題を書く能力は、司法試験の問題を書くことで上達します。この点については、LAW-WAVEというブログでNOAさんが口を酸っぱくするほど仰っております。

基本方針でもお示ししたとおり、私も司法試験過去問を中心に勉強を進めることとしました。

1-3-2 受験生のレベル感

次に、競争環境の把握です。

私の勝手な整理ですが、受験生のレベルは、

  1. ①典型論点を問題文の具体的な記載から抽出でき、条文解釈から判例等の示した規範を定立して事案の整理ができるレベル(記憶のストックから知識を引っ張って当該事案に当てはめることができるレベル)
  2. ②①について、法の趣旨や原則をさらに探求して規範を展開・修正することができるレベル(覚えている基本的知識を基礎に、自分の頭で考えることができるレベル)
  3. ③既存の判例との事実的な差異を緻密に分析して答案に表現できるレベル

の3段階に分類できるような気がしています。

ほとんどの受験生は①レベルの精度を競っており、②の途中で試験に合格するイメージです。私もおそらくここにいます。

試験委員は趣旨・実感などで③のレベルを求めているコメントをよく出していますが、少なくとも現時点でこれに付き合うことができるのは一部の上位層のみです。

したがって、①レベルに確実に到達し、可能な限り②レベルの論点を増やしていくのが、具体的な戦略となります。

1-3-3 勉強方法

①典型論点を問題文の具体的な記載から抽出でき、条文解釈から判例等の示した規範を定立して事案の整理ができるレベル(記憶のストックから知識を引っ張って当該事案に当てはめることができるレベル)

勉強を始めたときにまず目指すべきはこのレベルだと思います。

①レベルでは、まず問題文の具体的事実から抽象的な論点を抽出する能力を獲得する必要があります。そこで、抽象的なことが書いてある基本書ではなく、問題文を使って練習を行う必要があると思います。

私は、新司法試験の過去問演習を中心に、加えて定評のある問題集でまだ新司法試験では出ていないものの予備・旧司法試験では出ている典型論点の穴を埋める勉強に取り組みました。 

私は未修者でしたので、いつまでも論文が書けない!何を勉強すれば書けるようになるの…?と思っていましたが、残念ながら書かない限りいつまでも上達しませんでした…。しかし、はじめからゼロベースで何か書けるわけはありません。

そこで、私は以下の方法をとりましたので、1つの参考にしてみてください。

  1. まず、新司法試験過去問の上位答案を見て、手書きで答案を書く(ほぼ写経)

  2. 合格者などから答案にコメントをもらう
  3. コメントも踏まえ、手書き答案をWordに残す
  4. 何回も問題文、趣旨実感を読む、答案を読み直したり書き直したりして、Wordを修正していく

項番1では、何よりもまずゴールのレベル感を掴みたいと思い、新司法試験のその年度の最高レベルを把握することを心がけて答案を手書きしました。 私は1位から100位くらいまでの超上位答案だけ見るようにしていました。最も出題趣旨に答えている(はず)だと思ったからです。手書きなのは、項番2で、文字や段組みなども含めチェックしてもらうためです。このとき、ゆっくり手書きで答案の書きぶりの意味を考えたり、流れやあてはめの書き方を学ぶとともに、上位答案を少しでも改善できないか考えながら修正も試みます。

 

次に、項番2ですが、勉強が進まないうちは趣旨実感は読むのが難しいです。論文をあまり書いたことがないのであればなおさらだと思います。また、司法試験受験者は一般に真面目で勉強が得意なため試験委員の過度な要求(「…な答案は殆ど無かった」等)に応えようとしてしまい、迷走しがちです。ここは合否に関係ないがここは書かないと痛いなどの「司法試験をわかっている人」のアドバイスが有用です。

項番3ですが、上位答案者の規範を情報集約用の資料に記載して暗記します。また、コメントを受けて直した答案はWordに作成し直して将来勉強が進んだ時に見直すと、なお自分の作った答案の粗が多いことに気づくことができます。

 

①レベルが必須の勉強の大部分を占めますので、実質面・形式面いずれにおいても最も伸びる時期だと思います。

ポイントは、理解と同時並行的に条文・趣旨・規範部分の暗記をしてしまう点です(暗記はパワーです)。深い理解ができれば最高ですが、はじめはわかったつもりでも、全然わかってないということが私は多かったです。*1

②①について、法の趣旨や原則をさらに探求して規範を展開・修正することができるレベル(覚えている基本的知識を基礎に、自分の頭で考えることができるレベル)

次に、②レベルでは、典型論点について手を変え、品を変え出題される問題に対応するため、原則や趣旨の理解を涵養します。

そこで、インプット中心(基本書や解説書)による体系的な理解の獲得に取り組みました。

このレベルでは、基本書等を読んでいくうちに①で学んだ知識の点在が結合するので、勉強が楽しくなります。

もっとも、ここで忘れてはいけないのは、①レベルの勘が鈍ることを防ぐため、①レベルの勉強を怠ってはいけないということです。

①レベルは自動車の運転のようなものと感じています。

③既存の判例との事実的な差異を緻密に分析して答案に表現できるレベル

なお、私は③レベルでようやく判例の精緻な理解が必要となるのでは、と思っています。私もできればここに到達したいのですが…。

ここでは判例百選やケースブックなどの事案の精読が目的適合的だと思います。

ロースクールでは判例百選が必携とされ、初学者向けの授業でも百選をとにかく読ませますが、百選は紙面の関係上、事案や判旨の趣旨が短くまとめられており読んでもよくわからない…となることが多く、知識が十分にあるか、行間の読める上級者向けの教材だと思います。*2

また、ケースブックについてはそもそも属性上時間や労力のリソースが不足しており、取り組めませんでした。

学校では判例の細かい事実の知識確認にこだわる授業方針がとられていることが多く、これは③の勉強にあたりますが、そもそも①②のできない受験生にとっては明らかに効率が悪いように思います。*3

その結果、私は判旨は覚えているものの、それって「つまりどういうこと」なのかわからない状況に陥りがちでした。(使えない知識を持っている状況)。

判例を全く学習しなくてよいというわけではありませんので、私は①レベルの勉強では答案の記載から、②レベルの勉強では基本書等における学者・実務家先生のリード文(当該判例はつまりどういうことかという説明文)で判例を学習しました。個人的には司法試験合格のためにはそれで十分ではないかなと思っていますが、最近の出題の傾向からしても判例の内容をしっかり書けるに越したことはないんですよね…。

1-3-4 大事な形式論・体裁

私はロースクール3年次に辰巳の答練を受けていました。

答練を受けて最も勉強になったのは、他人の字はとても読みづらいという点です。

添削者の方の文章が全く読めないことも少なからずあり*4、同じように私の字を読む添削者も苦しんでいるだろうと感じました。

もちろん試験委員の方は答案を一生懸命読んでくださるとは思いますが、受験生側としては可能な限り答案の形式面を整え、私見委員の答案に対する予測可能性を極力高めてあげることが良いのではと思っています。

具体的に心掛けていたのは、以下の点です。

1-3-4-1 法的三段論法の遵守

答案作成においては、法的三段論法(i) 条文(条文がない場合は明文ない旨を記載)、ii) 趣旨、iii) 規範(要素をあげられるとなおよい)、iv) あてはめ(規範とのリンク・事実の評価)、v) 結論)を極力徹底します。

メイン論点はこれを実践して、実務家っぽい文章が書けるアピールすることとしました。

法的三段論法は実務家文書のプロトコルですので、試験委員の答案に対する予見可能性が高まるとともに、一応ちゃんとした文章が書ける人だという期待を持たせることができます。

なお、この流れで記載することで、未知の論点も一応法律文章っぽくなりますので、非典型論点について守った答案を簡単に作成することができます。

1-3-4-2 ナンバリング・小見出しの徹底

答案をナンバリングし、その段落で述べていることの要旨を小見出しにすることで、これから何を論じるのかを試験委員に明確に示します。

試験委員は採点表に従って採点すると思いますので、試験委員の採点が容易になります。また、当該科目の体系的理解(正しい知識が正しい箱に入っていること)も試験委員に示すことができます。さらに、答案を書き進めるうえで自分の頭を整理するにも有用です。

具体的には、問題文で問われていることを大見出しにし、それに対する論点のポイントや誘導文の要約を小見出しにすることを心がけていました。問題文で「Xの主張とその当否を検討せよ」となっている場合、1.Xの主張、2.当否という大見出しで論じることとなります。

これにより、聞かれていることに端的に答えることとなり、論述の拡散による得点の取りこぼしを防ぐことができます。

1-3-4-3 太く濃く書くこと

試験委員が読みやすい太く濃い字を書くことを心がけます。

私は、答案構成はパイロットのジェットストリーム(0.5mm)を使用していますが、目の弱い試験委員がいた場合に読みやすいよう、起案はペリカンのスーベレーン(中字)を使っていました。かなり太くて濃い字になります。

1-3-4-4 争点の把握

さて、上記の形式論を遵守して①レベルの勉強を進めていき、初見でも司法試験過去問に取り組むことができるレベルになると1つの大きな問題に直面します。

それは、「時間が足りない」という問題です。

すなわち、三段論法等の形式論を徹底した結果、総花的に問題を検討することとなり、2時間以内に問題を書き終わることが困難となります。

また、このような答案は、試験委員に対しどの論点が重要かわかっていないのではないかとの印象を与えることとなります。*5

さらに、残り数分での起案は、焦りから字が汚くなることや事実の評価漏れも増えがちになります。

時間が足りない場合の対策としては答案構成時間の短縮がありえますが、問題文の読み違えや論点の取りこぼしが怖いところです。

そこで重要な行為規範が「争点の把握」です。

問題文には、必ず試験委員が書いてほしい点がいくつかあり、この点が当事者間で争点となっていることが多いです。

また、争点には誘導がついていることや、紙面が多く割かれていることが多いです。

試験ではこのような争点について三段論法を徹底し厚めに論じることで得点を稼ぐ一方*6、それ以外の点についてはあっさりとした論述にとどめ三段論法の形式を崩します。

これにより、時間内に答案を確実に書き終わるとともに、問題全体での得点効率を高めることが可能となるのではないかと思っています。*7

そのため、私は自分がここだと思った論点以外では、あてはめはあっさりで三段論法をとっていないことも多いです。*8

上記は本当か?(勉強方法の反省) 

さて、前回同様、自分のとった方法を反省してみたいと思います。

趣旨・実感は本当に理解しづらいのか?

私が勉強をはじめたのは2015年ころですが、新司法試験の趣旨・実感は過去にさかのぼるほど簡潔なものとなっており、読み解くのが困難です。したがって、答案を作成した上でわかっている人にコメントをもらったり、解説をしてもらうことはとても有用だと思っていました。

しかし、2016年度以降の趣旨実感はとても詳細に記載されており、記述を読み取れさえすれば上位答案が作成できるようになっています。したがって、アウトプットと同時に深い理解のインプットができるようになったのかもしれません。*9

本当に答案を書く必要はあるのか?

次に、答案を手書きする必要ですが 不要な気がしてきました…。(私はついぞ書かないと上達しなかったのですが、)大事なのは答案の記載の意味をしっかり考えることや、典型論点の基本的知識をストックして書けることを少しずつ増やしていくことだと思うので…。時間のない人であれば、なおさらですね。見て覚えられればそれでいいと思います、楽だし…。

なお、私も時間の問題上、予備試験については答案を作成した年度も、作成せずに上位答案集だけ読んでいたものもあります。旧司法試験については、答案集などを買ってひたすら読むことで典型論点の基本的知識を暗記していました。

 

なんだかさらに話が拡散してしまい申し訳ないのですが、総論はこの程度にして、次回からは科目別の取り組みや使用教材、今年張っていたヤマなどについてお示しできればと思います。

それではまた~。 

 

今回の大事なポイント

今自分がどのレベルにいるか把握し、次のレベルに上がるために必要な努力をしよう!

試験委員に気持ちよく答案を読んでもらおう!

*1:正直、今もわかってないことだらけです。

*2:このような理由から、私は百選はあまり使いませんでしたが、ほぼ全受験生が百選を読みこんでいることからも、他の受験生の共通理解を知らないリスクの回避のために取り組む選択肢はあるのかなと思います。

*3:きっと将来いい法曹になるには必須なんだと思います…

*4:お金返してほしいです

*5: 「論じるべき点が多岐にわたることから,各論点の体系的な位置付けを明確に意識した上,厚く論じるべきものと簡潔に論じるべきものを選別し,手際よく論じる必要があった。すなわち,甲及び乙の罪責を論じるに当たって検討すべき論点には,重要性の点において軽重があり,その重要度に応じて論じる必要があったが,これを考慮することなく,必ずしも重要とは認められない論点や結論が明らかな事項の論述に多くを費やしている答案が見受けられた。」(H29刑法)などの注意が示されています。

*6:残念ながらR1刑訴の設問1は私はこの行為規範を守れませんでした

*7:私は残り5分を切ると手が震えたり、あてはめが雑になる傾向があったため、1時間50分で起案を終了し、残りの時間は答案の見直しに使うようにしていました。

*8:添削者によく怒られましたが、私は「故意及び不法領得の意思は明らかである」という文言が大好きです。

*9:もっともさらに考えると、勉強を始めたばかりの人があのような相当長い文章を読んで、果たして理解できるのか、という点も気になります。(というか私もいまだにわからないところあるし…それは地頭の問題かもしれないですが。)やはりはじめは相当つらいのではないかと思います。とりあえず暗記を先行させてしまって、何度も趣旨実感を読むなかで理解が進むといいな…。というのが私の考えです。