時間のない人向けの司法試験・予備試験シリーズ ~勉強方法について(各科目の使用教材・勉強方法など)~

 

前回のおさらい

相当期間放置しました。

今回は各科目系のそれぞれの勉強方法や使用教材をお示しします。これから勉強方法をはじめる方向けですので,基本的なことを書いています。

繰り返しになりますが,下記の方法が最良とは思わないので,ぜひとも疑ってかかってください。立場や状況は様々なので,下記をやれば受かるというものでもないと思いますので……。

なお,令和元年司法試験の論文成績ですが,公法系は、114.49点、民事系は,212.26点,刑事系は145.21点です(すべてA。62位)。

どうだすごいだろということが言いたいわけではなく(別記事の再現答案をみてもらえばわかると思うのですが),私の答案は記述もスカスカだし,出題の趣旨・採点実感に反することがたくさん書いてあり,ミスだらけです。それでもAはきます。本番でミスしないのは不可能なので,過去何度も趣旨・実感で指摘され,多数の受験生の共通知識になっているところを外さないという意識を持つことが大事だと思います。趣旨・実感で示されている事項も,それぞれ点数に影響する度合いは異なるので,過去問を検討する際には注意深く読んでみてください。

 

また,知っていることと書けることの間には大きな隔たりがあるため,過去問や演習書を検討する際は,必ず問題となった論点について,書ける状態にしておく勉強をすることが大事です。

以下の事項を自分のまとめメモ(私は主に趣旨規範ハンドブックでした)に書いておくと二回目以降の検討の際に有用です。

ア 論述の流れ

イ 要件

ウ 趣旨・規範

エ あてはめの考慮要素

 

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2-1 憲法

2-1-1 憲法のレベル感

私が勉強を始めた2015年ころ、まわりの受験生や合格者からは,「憲法は勉強しても結果が不安定な小論文大会」であり,権利を設定して制約を認定し審査基準(厳格中間緩やかの3種類)を立てたら,あとはあてはめ勝負、勉強に時間をかける意味がない」という意見が聞かれました(上位ローはそんなことないんだと思いますが……)。

しかし,憲法があてはめ勝負の博打科目となることを試験委員が求めているでしょうか……。試験委員が望むのは受験生の試験前日までの努力がきちんと反映された結果,得点分布がきれいなベル型カーブを描くことでしょう。当日の思い付きなどに左右されるあてはめ勝負を試験委員が重視しているとは思えません。

そのような矢先に,平成30年のような判例想起型の問題が登場しました。*1私はそれまで上記のあてはめ勝負答案を書いていたため,判例をしっかりと理解する必要に迫られました。結果として令和元年も同じ問題傾向が続いています。

判例の理解が進めば,類似判例の主張反論をパズルのように組み合わせることで,他の科目と同様,既存の知識を使う地に足のついた論述が可能となるのではないかと思います。このように判例をはしごにして起案することが,勉強の成果を試験委員に適切に示すことができ,かつ前日までの準備が可能で評価のボラティリティが少ない方法論ではないでしょうか。

したがって,総論における①レベルの答案練習時には、判例を用いて作成された答案(口述の憲法ガール参考答案や,伊藤たける先生の講座参考答案)を参照するとよいでしょう。

2-1-2 使用教材

使用教材は『憲法ガール』,『憲法の地図』,わからない点は『基本憲法』や青柳『憲法』で確認していました

憲法ガール』は,判例をはしごにした答案の型の習得に極めて有用です。

憲法の地図』は,200ページ以下で判例のポイントを解説している良書です。

『基本憲法』は,短答対策としても有用です。

青柳『憲法』については,いろいろと言われていますが,H27までの試験のアンチョコ集大成という大きな価値があると思います。

勉強方法は,基本的に過去問を演習する中で適宜憲法ガールを参照するとともに,判例知識のストックのために憲法の地図を通読していました。演習書などは取り組んでいません。

2-2 行政法

2-2-1 行政法のレベル感

行政法は,初見(であることも多い)個別法を読ませるため,問題にしっかりとした誘導文がついています。

したがって,誘導に乗って当たり前のことを当たり前に書くだけで一応の水準に乗ることができます。

 

逆に行政法において,知識があるのに評価が悪い場合は,誘導に乗らず試験委員に聞かれていることに正面から答えていないことが考えられます。

また,問題文の量が多いことから,答案の論述が散らかっており,書き手がどういう意図でその部分を書いているのか,読み手にはわからないという原因も考えられます。

誘導文のキーワードを小見出しにするなど,試験委員に何について書いているのかアピールすると良いと思います。

 

2-2-2 使用教材

使用教材は『基本行政法』,『行政法ガール』,『事例研究行政法』です。

『基本行政法』は判例に関する頭の整理ができ,素晴らしい行政法の基本書だと思います。個別法の仕組みが図などを用いて説明されており,非常にわかりやすいです。

行政法ガール』は、憲法ガール同様に有用ですが、個人的に行政法の勉強を詰め切れなかったため、使いこなせたかは疑問です。

『事例研究行政法』は、典型論点の書き方を練習するために使用しました。

勉強方法は,過去問を演習する中で適宜行政法ガールを参照するとともに、基本行政法を通読していました。

事例研究行政法は2部までの問題のうち出題可能性のある事案だけ取り組んでいましたが,今思えば過去問だけでもよかったかもしれません。不安になるのでやっていました。

なお,最近『実務解説行政訴訟』が出ていました。わからないことを調べるとだいたい載っているので最近勉強する際によく参照しています。

2-3 民法

2-3-1 民法のレベル感

民法は出題範囲が多くヤマを張りづらいこと,本番で思い付きを書いてしまいがち(神が降りてくること)なことから苦手な方が多いようです。

しかし,典型論点を網羅的に練習している受験生にとっては得点源の科目となります。

落ち着いて法的三段論法を踏むだけで得点になるのですが,地道に練習しているかどうかによる出来不出来の差が大きいです。

2-3-2 要件事実の有用性

民法は出題範囲が広いため,論点の取りこぼしや,争点は何なのかが把握しきれないことがあります。

そこで,要件事実で問題を整理することが有用です*2

「実質的争点」を見つけ出すことで,論点の取りこぼしを防ぐことが可能となります。

攻撃防御を抽象的でもよいので書き出してみることが頭の整理になるのでおすすめです。

 

2-3-3 使用教材

使用教材は主に潮見『入門民法』,『趣旨規範ハンドブック』,『スタンダード100』,大島『民事裁判実務の基礎(上巻)』です。

『入門民法』は通読できるレベルの薄さの一冊本であり,必要十分の知識が掲載されています。現在では民法(全)になり,少し厚くなってしまいましたね。

『趣旨規範ハンドブック』は,上位答案の規範など答案の流れをメモする一元化ツールとして使いました。

『スタンダード100』は,全範囲の典型問題を過去問ベースで網羅的に検討できるため使用していました。

大島本は,予備試験論文対策として取り組んだところ,民法の成績(択一・論文)が大きく伸びました。

個人的には強くお勧めしたいのですが,司法試験及びその後の修習では要件事実を近年重視しておらず新問研で十分という見方もあり,余裕がある場合のみやればいいと思います。

勉強方法ですが,司法試験の過去問に取り組むとともに,スタンダード100に掲載されている典型論点の論述プロセスを暗記しました。また,規範部分などは覚えやすいように加工して趣旨規範ハンドブックに書き込みました。さらに,定期的に入門民法(今だと民法(全))や,趣旨規範ハンドブックを読み返して,基本的な知識の記憶喚起をしました。

2-4 会社法

2-4-1 会社法のレベル感

会社法は条文操作が難しいです……。そもそも条文を見つけられないこともあるかと思います。したがって,できる受験生は安定してできる一方,できない受験生にとっては重荷となります。私は,論点ごとに条文を覚えていくという愚直な方法しか知りません…。

 

2-4-2 使用教材

使用教材は『リーガルクエスト』、田中『会社法』、『事例から考える会社法』、『趣旨規範ハンドブック』です。

初学者のころは、『リーガルクエスト』、途中から田中『会社法』を基本書としていました。リークエだけでいいと思います。

『事例から考える会社法』はとても難しいですが,答案の筋を覚えてから司法試験で困ることが激減しました。令和元年の会社法設問2も、同書⒁を学習したのでなかなかうまくかけた気がします。

『趣旨規範ハンドブック』は民法と同様に一元化ツールです。

 

勉強方法ですが,過去問で出た論点部分の知識や具体的な論述方法を上記の基本書や演習書で暗記していました。民法と同じ勉強方法です。

2-5 民事訴訟

2-5-1 民事訴訟法のレベル感

民事訴訟法は受験生の苦手科目らしいです。

その反面,理論科目であるため暗記も少なく,一度理論を理解すれば安定して得点することができます。

民法と同様に必ず訴訟物を確認すること,具体的な要件事実を整理することが大事です。

具体的な争点を把握することができればどの論点が問題になっているか明確になりますし,既判力関連のミスが減ります。

2-5-2 基本概念の理解

事案を抽象的なまま扱うと難しく感じるので,今自分がどのステージの議論をしているのか(処分権主義のレベルか,弁論主義のレベルか,証拠調べのレベルか)具体的に議論するとともに,訴訟物と要件事実を整理し,基本的な原理・趣旨から規範を導くことを心がけます。基本原則が深く理解できていれば,規範を自在に修正することができますので,そこから先は私は自由に書いていました。

2-5-3 使用教材

使用教材は和田『基礎からわかる民事訴訟法』,藤田『解析民事訴訟法』,『スタンダード100』,『趣旨規範ハンドブック』,大島『民事裁判実務の基礎(上巻)』,和田『LIVE本』です。

『基礎からわかる』は図解が多くわかりやすいため初学者のころから使用していました。

『スタンダード100』は典型論点を網羅的に練習するために使用しました。

『解析民事訴訟法』は旧試験の解説本ですので、『スタンダード100』の副読本として使いました。

『LIVE本』は,司法試験の解説を実務家教員が行っており、頭の整理に有用です。

勉強方法ですが,司法試験の過去問をLIVE本を使用しながら取り組むとともに,スタンダード100に掲載されている典型論点の論述プロセスを暗記しました。これも民法と同じ勉強方法です。

2-6 刑法

2-6-1 刑法のレベル感

刑法はなぜか多くの受験生が他の科目に比べると得意としていますが、なぜなんでしょうか……。

また,近年はとにかく量を書かせる事務処理科目から理論科目へ変化してきていますので,理論面もよく勉強しておく必要があります。

答案作成の際には,メリハリをつける必要はありますが構成要件を必ずすべて検討することが必要です。すべての構成要件(と犯人性)を合理的な疑いを容れる余地なく立証することで初めて犯罪が成立することとなるからです。争点となっている構成要件以外は1,2行で簡単に認定すれば足りると思います(私は「~~は明らかである」とよく書いてしまっていましたが…。)。 

また、事実の評価を間違えると論理が遠回りになることや,結論のすわりが悪いようにできていることが多いように感じます……。「結論は自由」というのが司法試験の原則ですが,最低限の筋というものがあることは認識しておいたほうがいいと思います。「こんなの書ききれない……」と感じたときは,構成に間違いないか疑ってみるとよいでしょう。

2-6-2 使用教材

使用教材は『基本刑法』,『刑事実体法演習』,大塚『ロースクール演習刑法』,『刑事事実認定重要判決50選』,『趣旨規範ハンドブック』です。

ロースクール演習刑法』は,初学者の頃に典型論点を勉強するために使用しました。

適切なレベルの問題がそろっている良書だと思います,

『刑事実体法演習』は,裁判官が司法試験過去問類似の問題を解説しており,実務の考え方を知る上で極めて有用です。

『基本刑法』は,ローの指定教科書であったため使用していました。基本シリーズって本当にわかりやすいので好きです。

『刑事事実認定重要判決50選』は,より深く知っておきたい分野について読んでいましたが,司法試験の対策としてはオーバースペックですので,余裕のある場合のみ取り組んでみてもよいかもしれません。

2-7 刑事訴訟法

2-7-1 刑事訴訟法のレベル感

刑事訴訟法も苦手という受験生をあまり見ません……。刑事系が得意という人が多いのはなぜなのか……。

出題範囲がある程度決まっていることから,方法論が蓄積しているように思われる反面、書けたつもりでもなぜか評価が悪いという主観と客観のずれが大きくなりがちな科目でもあります。「知っている」と「書ける」の差は大きいんですね……。

2-7-2 伝聞の書き方

ところで,今年は伝聞が出そうですね。

伝聞の問題では争点を明記することからスタートしましょう。争点が明らかになれば検察官の証拠構造も明らかになります。

証拠構造が明らかになれば,特定の証拠をどのように使って争点を立証するのか、特に間接証拠型では推認過程が明らかになります。

そこでようやく要証事実(ここでは、当該証拠で直接証明できる事実)との関係で、当該証拠が内容の真実性を問題とするのか(すなわち、本人を呼んできて供述させる必要がある証拠なのか)が判明します。

この過程を明らかにするように論述を進めていくことが大事です。

2-7-3 使用教材

使用教材は,古江『事例演習刑事訴訟法』,緑『入門刑事訴訟法』,新庄『LIVE本』,『実例刑事訴訟法』です。

『事例演習刑事訴訟法』は多くの受験生が取り組んでいるのではないでしょうか。

読みこなすのに時間がかかります(本当に「使えている」受験生はどれほどいるでしょうか。私は怪しい)。

『入門刑事訴訟法』は,基本をわかりやすく解説しており良書だと思います。私はページ数の少ない第1版を持っているのですが今でもよく読みます。

新庄『LIVE本』は元検事が過去問を解説していますので,過去問検討の際に読むと良いと思います。

『実例刑事訴訟法』は通読はしませんが、辞書的に参照しました。

 

 

 

*1:試験委員に言わせればそんなのずっと前からかもしれませんが……。

*2:H30民法では、「当事者双方の主張・反論について 「Aは~と主張する。これについては ・・・・と考える。これに対し,Bは~と反論する。これについては・・・と考える 」といった形式で論述を進める答案が散見された。このような答案はそれぞれの主張・反論といった形式で記載しようとするあまり,論旨の明確性を欠く嫌いがあり,中には論理的な一貫性を欠くものも見られた。「代金支払請求は認められるか,理由を付して解答しなさい」という問いに素直に答える方が望ましいものと考えられる。」と述べられており,形式面で要件事実的発想に拘泥するリスクはあります