時間のない人向けの司法試験・予備試験シリーズ ~勉強方法について(各科目の使用教材・勉強方法など)~
前回のおさらい
相当期間放置しました。
今回は各科目系のそれぞれの勉強方法や使用教材をお示しします。これから勉強方法をはじめる方向けですので,基本的なことを書いています。
繰り返しになりますが,下記の方法が最良とは思わないので,ぜひとも疑ってかかってください。立場や状況は様々なので,下記をやれば受かるというものでもないと思いますので……。
なお,令和元年司法試験の論文成績ですが,公法系は、114.49点、民事系は,212.26点,刑事系は145.21点です(すべてA。62位)。
どうだすごいだろということが言いたいわけではなく(別記事の再現答案をみてもらえばわかると思うのですが),私の答案は記述もスカスカだし,出題の趣旨・採点実感に反することがたくさん書いてあり,ミスだらけです。それでもAはきます。本番でミスしないのは不可能なので,過去何度も趣旨・実感で指摘され,多数の受験生の共通知識になっているところを外さないという意識を持つことが大事だと思います。趣旨・実感で示されている事項も,それぞれ点数に影響する度合いは異なるので,過去問を検討する際には注意深く読んでみてください。
また,知っていることと書けることの間には大きな隔たりがあるため,過去問や演習書を検討する際は,必ず問題となった論点について,書ける状態にしておく勉強をすることが大事です。
以下の事項を自分のまとめメモ(私は主に趣旨規範ハンドブックでした)に書いておくと二回目以降の検討の際に有用です。
ア 論述の流れ
イ 要件
ウ 趣旨・規範
エ あてはめの考慮要素
bengoshinaritaio.hatenablog.com
bengoshinaritaio.hatenablog.com
bengoshinaritaio.hatenablog.combengoshinaritaio.hatenablog.com
2-1 憲法
2-1-1 憲法のレベル感
私が勉強を始めた2015年ころ、まわりの受験生や合格者からは,「憲法は勉強しても結果が不安定な小論文大会」であり,権利を設定して制約を認定し審査基準(厳格中間緩やかの3種類)を立てたら,あとはあてはめ勝負、勉強に時間をかける意味がない」という意見が聞かれました(上位ローはそんなことないんだと思いますが……)。
しかし,憲法があてはめ勝負の博打科目となることを試験委員が求めているでしょうか……。試験委員が望むのは受験生の試験前日までの努力がきちんと反映された結果,得点分布がきれいなベル型カーブを描くことでしょう。当日の思い付きなどに左右されるあてはめ勝負を試験委員が重視しているとは思えません。
そのような矢先に,平成30年のような判例想起型の問題が登場しました。*1私はそれまで上記のあてはめ勝負答案を書いていたため,判例をしっかりと理解する必要に迫られました。結果として令和元年も同じ問題傾向が続いています。
判例の理解が進めば,類似判例の主張反論をパズルのように組み合わせることで,他の科目と同様,既存の知識を使う地に足のついた論述が可能となるのではないかと思います。このように判例をはしごにして起案することが,勉強の成果を試験委員に適切に示すことができ,かつ前日までの準備が可能で評価のボラティリティが少ない方法論ではないでしょうか。
したがって,総論における①レベルの答案練習時には、判例を用いて作成された答案(口述の憲法ガール参考答案や,伊藤たける先生の講座参考答案)を参照するとよいでしょう。
2-1-2 使用教材
使用教材は『憲法ガール』,『憲法の地図』,わからない点は『基本憲法』や青柳『憲法』で確認していました
『憲法ガール』は,判例をはしごにした答案の型の習得に極めて有用です。
『憲法の地図』は,200ページ以下で判例のポイントを解説している良書です。
『基本憲法』は,短答対策としても有用です。
青柳『憲法』については,いろいろと言われていますが,H27までの試験のアンチョコ集大成という大きな価値があると思います。
勉強方法は,基本的に過去問を演習する中で適宜憲法ガールを参照するとともに,判例知識のストックのために憲法の地図を通読していました。演習書などは取り組んでいません。
2-2 行政法
2-2-1 行政法のレベル感
行政法は,初見(であることも多い)個別法を読ませるため,問題にしっかりとした誘導文がついています。
したがって,誘導に乗って当たり前のことを当たり前に書くだけで一応の水準に乗ることができます。
逆に行政法において,知識があるのに評価が悪い場合は,誘導に乗らず試験委員に聞かれていることに正面から答えていないことが考えられます。
また,問題文の量が多いことから,答案の論述が散らかっており,書き手がどういう意図でその部分を書いているのか,読み手にはわからないという原因も考えられます。
誘導文のキーワードを小見出しにするなど,試験委員に何について書いているのかアピールすると良いと思います。
2-2-2 使用教材
使用教材は『基本行政法』,『行政法ガール』,『事例研究行政法』です。
『基本行政法』は判例に関する頭の整理ができ,素晴らしい行政法の基本書だと思います。個別法の仕組みが図などを用いて説明されており,非常にわかりやすいです。
『行政法ガール』は、憲法ガール同様に有用ですが、個人的に行政法の勉強を詰め切れなかったため、使いこなせたかは疑問です。
『事例研究行政法』は、典型論点の書き方を練習するために使用しました。
勉強方法は,過去問を演習する中で適宜行政法ガールを参照するとともに、基本行政法を通読していました。
事例研究行政法は2部までの問題のうち出題可能性のある事案だけ取り組んでいましたが,今思えば過去問だけでもよかったかもしれません。不安になるのでやっていました。
なお,最近『実務解説行政訴訟』が出ていました。わからないことを調べるとだいたい載っているので最近勉強する際によく参照しています。
2-3 民法
2-3-1 民法のレベル感
民法は出題範囲が多くヤマを張りづらいこと,本番で思い付きを書いてしまいがち(神が降りてくること)なことから苦手な方が多いようです。
しかし,典型論点を網羅的に練習している受験生にとっては得点源の科目となります。
落ち着いて法的三段論法を踏むだけで得点になるのですが,地道に練習しているかどうかによる出来不出来の差が大きいです。
2-3-2 要件事実の有用性
民法は出題範囲が広いため,論点の取りこぼしや,争点は何なのかが把握しきれないことがあります。
そこで,要件事実で問題を整理することが有用です*2。
「実質的争点」を見つけ出すことで,論点の取りこぼしを防ぐことが可能となります。
攻撃防御を抽象的でもよいので書き出してみることが頭の整理になるのでおすすめです。
2-3-3 使用教材
使用教材は主に潮見『入門民法』,『趣旨規範ハンドブック』,『スタンダード100』,大島『民事裁判実務の基礎(上巻)』です。
『入門民法』は通読できるレベルの薄さの一冊本であり,必要十分の知識が掲載されています。現在では民法(全)になり,少し厚くなってしまいましたね。
『趣旨規範ハンドブック』は,上位答案の規範など答案の流れをメモする一元化ツールとして使いました。
『スタンダード100』は,全範囲の典型問題を過去問ベースで網羅的に検討できるため使用していました。
大島本は,予備試験論文対策として取り組んだところ,民法の成績(択一・論文)が大きく伸びました。
個人的には強くお勧めしたいのですが,司法試験及びその後の修習では要件事実を近年重視しておらず新問研で十分という見方もあり,余裕がある場合のみやればいいと思います。
勉強方法ですが,司法試験の過去問に取り組むとともに,スタンダード100に掲載されている典型論点の論述プロセスを暗記しました。また,規範部分などは覚えやすいように加工して趣旨規範ハンドブックに書き込みました。さらに,定期的に入門民法(今だと民法(全))や,趣旨規範ハンドブックを読み返して,基本的な知識の記憶喚起をしました。
2-4 会社法
2-4-1 会社法のレベル感
会社法は条文操作が難しいです……。そもそも条文を見つけられないこともあるかと思います。したがって,できる受験生は安定してできる一方,できない受験生にとっては重荷となります。私は,論点ごとに条文を覚えていくという愚直な方法しか知りません…。
2-4-2 使用教材
使用教材は『リーガルクエスト』、田中『会社法』、『事例から考える会社法』、『趣旨規範ハンドブック』です。
初学者のころは、『リーガルクエスト』、途中から田中『会社法』を基本書としていました。リークエだけでいいと思います。
『事例から考える会社法』はとても難しいですが,答案の筋を覚えてから司法試験で困ることが激減しました。令和元年の会社法設問2も、同書⒁を学習したのでなかなかうまくかけた気がします。
『趣旨規範ハンドブック』は民法と同様に一元化ツールです。
勉強方法ですが,過去問で出た論点部分の知識や具体的な論述方法を上記の基本書や演習書で暗記していました。民法と同じ勉強方法です。
2-5 民事訴訟法
2-5-1 民事訴訟法のレベル感
民事訴訟法は受験生の苦手科目らしいです。
その反面,理論科目であるため暗記も少なく,一度理論を理解すれば安定して得点することができます。
民法と同様に必ず訴訟物を確認すること,具体的な要件事実を整理することが大事です。
具体的な争点を把握することができればどの論点が問題になっているか明確になりますし,既判力関連のミスが減ります。
2-5-2 基本概念の理解
事案を抽象的なまま扱うと難しく感じるので,今自分がどのステージの議論をしているのか(処分権主義のレベルか,弁論主義のレベルか,証拠調べのレベルか)具体的に議論するとともに,訴訟物と要件事実を整理し,基本的な原理・趣旨から規範を導くことを心がけます。基本原則が深く理解できていれば,規範を自在に修正することができますので,そこから先は私は自由に書いていました。
2-5-3 使用教材
使用教材は和田『基礎からわかる民事訴訟法』,藤田『解析民事訴訟法』,『スタンダード100』,『趣旨規範ハンドブック』,大島『民事裁判実務の基礎(上巻)』,和田『LIVE本』です。
『基礎からわかる』は図解が多くわかりやすいため初学者のころから使用していました。
『スタンダード100』は典型論点を網羅的に練習するために使用しました。
『解析民事訴訟法』は旧試験の解説本ですので、『スタンダード100』の副読本として使いました。
『LIVE本』は,司法試験の解説を実務家教員が行っており、頭の整理に有用です。
勉強方法ですが,司法試験の過去問をLIVE本を使用しながら取り組むとともに,スタンダード100に掲載されている典型論点の論述プロセスを暗記しました。これも民法と同じ勉強方法です。
2-6 刑法
2-6-1 刑法のレベル感
刑法はなぜか多くの受験生が他の科目に比べると得意としていますが、なぜなんでしょうか……。
また,近年はとにかく量を書かせる事務処理科目から理論科目へ変化してきていますので,理論面もよく勉強しておく必要があります。
答案作成の際には,メリハリをつける必要はありますが構成要件を必ずすべて検討することが必要です。すべての構成要件(と犯人性)を合理的な疑いを容れる余地なく立証することで初めて犯罪が成立することとなるからです。争点となっている構成要件以外は1,2行で簡単に認定すれば足りると思います(私は「~~は明らかである」とよく書いてしまっていましたが…。)。
また、事実の評価を間違えると論理が遠回りになることや,結論のすわりが悪いようにできていることが多いように感じます……。「結論は自由」というのが司法試験の原則ですが,最低限の筋というものがあることは認識しておいたほうがいいと思います。「こんなの書ききれない……」と感じたときは,構成に間違いないか疑ってみるとよいでしょう。
2-6-2 使用教材
使用教材は『基本刑法』,『刑事実体法演習』,大塚『ロースクール演習刑法』,『刑事事実認定重要判決50選』,『趣旨規範ハンドブック』です。
『ロースクール演習刑法』は,初学者の頃に典型論点を勉強するために使用しました。
適切なレベルの問題がそろっている良書だと思います,
『刑事実体法演習』は,裁判官が司法試験過去問類似の問題を解説しており,実務の考え方を知る上で極めて有用です。
『基本刑法』は,ローの指定教科書であったため使用していました。基本シリーズって本当にわかりやすいので好きです。
『刑事事実認定重要判決50選』は,より深く知っておきたい分野について読んでいましたが,司法試験の対策としてはオーバースペックですので,余裕のある場合のみ取り組んでみてもよいかもしれません。
2-7 刑事訴訟法
2-7-1 刑事訴訟法のレベル感
刑事訴訟法も苦手という受験生をあまり見ません……。刑事系が得意という人が多いのはなぜなのか……。
出題範囲がある程度決まっていることから,方法論が蓄積しているように思われる反面、書けたつもりでもなぜか評価が悪いという主観と客観のずれが大きくなりがちな科目でもあります。「知っている」と「書ける」の差は大きいんですね……。
2-7-2 伝聞の書き方
ところで,今年は伝聞が出そうですね。
伝聞の問題では争点を明記することからスタートしましょう。争点が明らかになれば検察官の証拠構造も明らかになります。
証拠構造が明らかになれば,特定の証拠をどのように使って争点を立証するのか、特に間接証拠型では推認過程が明らかになります。
そこでようやく要証事実(ここでは、当該証拠で直接証明できる事実)との関係で、当該証拠が内容の真実性を問題とするのか(すなわち、本人を呼んできて供述させる必要がある証拠なのか)が判明します。
この過程を明らかにするように論述を進めていくことが大事です。
2-7-3 使用教材
使用教材は,古江『事例演習刑事訴訟法』,緑『入門刑事訴訟法』,新庄『LIVE本』,『実例刑事訴訟法』です。
『事例演習刑事訴訟法』は多くの受験生が取り組んでいるのではないでしょうか。
読みこなすのに時間がかかります(本当に「使えている」受験生はどれほどいるでしょうか。私は怪しい)。
『入門刑事訴訟法』は,基本をわかりやすく解説しており良書だと思います。私はページ数の少ない第1版を持っているのですが今でもよく読みます。
新庄『LIVE本』は元検事が過去問を解説していますので,過去問検討の際に読むと良いと思います。
『実例刑事訴訟法』は通読はしませんが、辞書的に参照しました。
*1:試験委員に言わせればそんなのずっと前からかもしれませんが……。
*2:H30民法では、「当事者双方の主張・反論について 「Aは~と主張する。これについては ・・・・と考える。これに対し,Bは~と反論する。これについては・・・と考える 」といった形式で論述を進める答案が散見された。このような答案はそれぞれの主張・反論といった形式で記載しようとするあまり,論旨の明確性を欠く嫌いがあり,中には論理的な一貫性を欠くものも見られた。「代金支払請求は認められるか,理由を付して解答しなさい」という問いに素直に答える方が望ましいものと考えられる。」と述べられており,形式面で要件事実的発想に拘泥するリスクはあります
時間のない人向けの司法試験・予備試験シリーズ ~勉強方法について(総論③具体的方策(総論おわり))~
- 前回のおさらい
- 1-3 具体的方策
- 上記は本当か?(勉強方法の反省)
- 今回の大事なポイント
前回のおさらい
前回は基本方針の理由をお示ししましたが、じゃあ結局何をすればいいのか、よくわからないまま終わってしまいました。総論なので仕方ないところもあるのですが、もう少し具体的な方策をお示ししたいと思います。
1-3 具体的方策
抽象論が続いてしまいましたが、これから勉強をはじめるにあたって具体的に何をすべきか、考えてみます。
1-3-1 アウトカムから考える
まずは、最終的なゴールです。
いうまでもなく、受験生の望むアウトカムは司法試験合格です。そして、司法試験の問題を書く能力は、司法試験の問題を書くことで上達します。この点については、LAW-WAVEというブログでNOAさんが口を酸っぱくするほど仰っております。
基本方針でもお示ししたとおり、私も司法試験過去問を中心に勉強を進めることとしました。
1-3-2 受験生のレベル感
次に、競争環境の把握です。
私の勝手な整理ですが、受験生のレベルは、
- ①典型論点を問題文の具体的な記載から抽出でき、条文解釈から判例等の示した規範を定立して事案の整理ができるレベル(記憶のストックから知識を引っ張って当該事案に当てはめることができるレベル)
- ②①について、法の趣旨や原則をさらに探求して規範を展開・修正することができるレベル(覚えている基本的知識を基礎に、自分の頭で考えることができるレベル)
- ③既存の判例との事実的な差異を緻密に分析して答案に表現できるレベル
の3段階に分類できるような気がしています。
ほとんどの受験生は①レベルの精度を競っており、②の途中で試験に合格するイメージです。私もおそらくここにいます。
試験委員は趣旨・実感などで③のレベルを求めているコメントをよく出していますが、少なくとも現時点でこれに付き合うことができるのは一部の上位層のみです。
したがって、①レベルに確実に到達し、可能な限り②レベルの論点を増やしていくのが、具体的な戦略となります。
1-3-3 勉強方法
①典型論点を問題文の具体的な記載から抽出でき、条文解釈から判例等の示した規範を定立して事案の整理ができるレベル(記憶のストックから知識を引っ張って当該事案に当てはめることができるレベル)
勉強を始めたときにまず目指すべきはこのレベルだと思います。
①レベルでは、まず問題文の具体的事実から抽象的な論点を抽出する能力を獲得する必要があります。そこで、抽象的なことが書いてある基本書ではなく、問題文を使って練習を行う必要があると思います。
私は、新司法試験の過去問演習を中心に、加えて定評のある問題集でまだ新司法試験では出ていないものの予備・旧司法試験では出ている典型論点の穴を埋める勉強に取り組みました。
私は未修者でしたので、いつまでも論文が書けない!何を勉強すれば書けるようになるの…?と思っていましたが、残念ながら書かない限りいつまでも上達しませんでした…。しかし、はじめからゼロベースで何か書けるわけはありません。
そこで、私は以下の方法をとりましたので、1つの参考にしてみてください。
-
まず、新司法試験過去問の上位答案を見て、手書きで答案を書く(ほぼ写経)
- 合格者などから答案にコメントをもらう
- コメントも踏まえ、手書き答案をWordに残す
- 何回も問題文、趣旨実感を読む、答案を読み直したり書き直したりして、Wordを修正していく
項番1では、何よりもまずゴールのレベル感を掴みたいと思い、新司法試験のその年度の最高レベルを把握することを心がけて答案を手書きしました。 私は1位から100位くらいまでの超上位答案だけ見るようにしていました。最も出題趣旨に答えている(はず)だと思ったからです。手書きなのは、項番2で、文字や段組みなども含めチェックしてもらうためです。このとき、ゆっくり手書きで答案の書きぶりの意味を考えたり、流れやあてはめの書き方を学ぶとともに、上位答案を少しでも改善できないか考えながら修正も試みます。
次に、項番2ですが、勉強が進まないうちは趣旨実感は読むのが難しいです。論文をあまり書いたことがないのであればなおさらだと思います。また、司法試験受験者は一般に真面目で勉強が得意なため試験委員の過度な要求(「…な答案は殆ど無かった」等)に応えようとしてしまい、迷走しがちです。ここは合否に関係ないがここは書かないと痛いなどの「司法試験をわかっている人」のアドバイスが有用です。
項番3ですが、上位答案者の規範を情報集約用の資料に記載して暗記します。また、コメントを受けて直した答案はWordに作成し直して将来勉強が進んだ時に見直すと、なお自分の作った答案の粗が多いことに気づくことができます。
①レベルが必須の勉強の大部分を占めますので、実質面・形式面いずれにおいても最も伸びる時期だと思います。
ポイントは、理解と同時並行的に条文・趣旨・規範部分の暗記をしてしまう点です(暗記はパワーです)。深い理解ができれば最高ですが、はじめはわかったつもりでも、全然わかってないということが私は多かったです。*1
②①について、法の趣旨や原則をさらに探求して規範を展開・修正することができるレベル(覚えている基本的知識を基礎に、自分の頭で考えることができるレベル)
次に、②レベルでは、典型論点について手を変え、品を変え出題される問題に対応するため、原則や趣旨の理解を涵養します。
そこで、インプット中心(基本書や解説書)による体系的な理解の獲得に取り組みました。
このレベルでは、基本書等を読んでいくうちに①で学んだ知識の点在が結合するので、勉強が楽しくなります。
もっとも、ここで忘れてはいけないのは、①レベルの勘が鈍ることを防ぐため、①レベルの勉強を怠ってはいけないということです。
①レベルは自動車の運転のようなものと感じています。
③既存の判例との事実的な差異を緻密に分析して答案に表現できるレベル
なお、私は③レベルでようやく判例の精緻な理解が必要となるのでは、と思っています。私もできればここに到達したいのですが…。
ここでは判例百選やケースブックなどの事案の精読が目的適合的だと思います。
ロースクールでは判例百選が必携とされ、初学者向けの授業でも百選をとにかく読ませますが、百選は紙面の関係上、事案や判旨の趣旨が短くまとめられており読んでもよくわからない…となることが多く、知識が十分にあるか、行間の読める上級者向けの教材だと思います。*2
また、ケースブックについてはそもそも属性上時間や労力のリソースが不足しており、取り組めませんでした。
学校では判例の細かい事実の知識確認にこだわる授業方針がとられていることが多く、これは③の勉強にあたりますが、そもそも①②のできない受験生にとっては明らかに効率が悪いように思います。*3
その結果、私は判旨は覚えているものの、それって「つまりどういうこと」なのかわからない状況に陥りがちでした。(使えない知識を持っている状況)。
判例を全く学習しなくてよいというわけではありませんので、私は①レベルの勉強では答案の記載から、②レベルの勉強では基本書等における学者・実務家先生のリード文(当該判例はつまりどういうことかという説明文)で判例を学習しました。個人的には司法試験合格のためにはそれで十分ではないかなと思っていますが、最近の出題の傾向からしても判例の内容をしっかり書けるに越したことはないんですよね…。
1-3-4 大事な形式論・体裁
私はロースクール3年次に辰巳の答練を受けていました。
答練を受けて最も勉強になったのは、他人の字はとても読みづらいという点です。
添削者の方の文章が全く読めないことも少なからずあり*4、同じように私の字を読む添削者も苦しんでいるだろうと感じました。
もちろん試験委員の方は答案を一生懸命読んでくださるとは思いますが、受験生側としては可能な限り答案の形式面を整え、私見委員の答案に対する予測可能性を極力高めてあげることが良いのではと思っています。
具体的に心掛けていたのは、以下の点です。
1-3-4-1 法的三段論法の遵守
答案作成においては、法的三段論法(i) 条文(条文がない場合は明文ない旨を記載)、ii) 趣旨、iii) 規範(要素をあげられるとなおよい)、iv) あてはめ(規範とのリンク・事実の評価)、v) 結論)を極力徹底します。
メイン論点はこれを実践して、実務家っぽい文章が書けるアピールすることとしました。
法的三段論法は実務家文書のプロトコルですので、試験委員の答案に対する予見可能性が高まるとともに、一応ちゃんとした文章が書ける人だという期待を持たせることができます。
なお、この流れで記載することで、未知の論点も一応法律文章っぽくなりますので、非典型論点について守った答案を簡単に作成することができます。
1-3-4-2 ナンバリング・小見出しの徹底
答案をナンバリングし、その段落で述べていることの要旨を小見出しにすることで、これから何を論じるのかを試験委員に明確に示します。
試験委員は採点表に従って採点すると思いますので、試験委員の採点が容易になります。また、当該科目の体系的理解(正しい知識が正しい箱に入っていること)も試験委員に示すことができます。さらに、答案を書き進めるうえで自分の頭を整理するにも有用です。
具体的には、問題文で問われていることを大見出しにし、それに対する論点のポイントや誘導文の要約を小見出しにすることを心がけていました。問題文で「Xの主張とその当否を検討せよ」となっている場合、1.Xの主張、2.当否という大見出しで論じることとなります。
これにより、聞かれていることに端的に答えることとなり、論述の拡散による得点の取りこぼしを防ぐことができます。
1-3-4-3 太く濃く書くこと
試験委員が読みやすい太く濃い字を書くことを心がけます。
私は、答案構成はパイロットのジェットストリーム(0.5mm)を使用していますが、目の弱い試験委員がいた場合に読みやすいよう、起案はペリカンのスーベレーン(中字)を使っていました。かなり太くて濃い字になります。
1-3-4-4 争点の把握
さて、上記の形式論を遵守して①レベルの勉強を進めていき、初見でも司法試験過去問に取り組むことができるレベルになると1つの大きな問題に直面します。
それは、「時間が足りない」という問題です。
すなわち、三段論法等の形式論を徹底した結果、総花的に問題を検討することとなり、2時間以内に問題を書き終わることが困難となります。
また、このような答案は、試験委員に対しどの論点が重要かわかっていないのではないかとの印象を与えることとなります。*5
さらに、残り数分での起案は、焦りから字が汚くなることや事実の評価漏れも増えがちになります。
時間が足りない場合の対策としては答案構成時間の短縮がありえますが、問題文の読み違えや論点の取りこぼしが怖いところです。
そこで重要な行為規範が「争点の把握」です。
問題文には、必ず試験委員が書いてほしい点がいくつかあり、この点が当事者間で争点となっていることが多いです。
また、争点には誘導がついていることや、紙面が多く割かれていることが多いです。
試験ではこのような争点について三段論法を徹底し厚めに論じることで得点を稼ぐ一方*6、それ以外の点についてはあっさりとした論述にとどめ三段論法の形式を崩します。
これにより、時間内に答案を確実に書き終わるとともに、問題全体での得点効率を高めることが可能となるのではないかと思っています。*7
そのため、私は自分がここだと思った論点以外では、あてはめはあっさりで三段論法をとっていないことも多いです。*8
上記は本当か?(勉強方法の反省)
さて、前回同様、自分のとった方法を反省してみたいと思います。
趣旨・実感は本当に理解しづらいのか?
私が勉強をはじめたのは2015年ころですが、新司法試験の趣旨・実感は過去にさかのぼるほど簡潔なものとなっており、読み解くのが困難です。したがって、答案を作成した上でわかっている人にコメントをもらったり、解説をしてもらうことはとても有用だと思っていました。
しかし、2016年度以降の趣旨実感はとても詳細に記載されており、記述を読み取れさえすれば上位答案が作成できるようになっています。したがって、アウトプットと同時に深い理解のインプットができるようになったのかもしれません。*9
本当に答案を書く必要はあるのか?
次に、答案を手書きする必要ですが 不要な気がしてきました…。(私はついぞ書かないと上達しなかったのですが、)大事なのは答案の記載の意味をしっかり考えることや、典型論点の基本的知識をストックして書けることを少しずつ増やしていくことだと思うので…。時間のない人であれば、なおさらですね。見て覚えられればそれでいいと思います、楽だし…。
なお、私も時間の問題上、予備試験については答案を作成した年度も、作成せずに上位答案集だけ読んでいたものもあります。旧司法試験については、答案集などを買ってひたすら読むことで典型論点の基本的知識を暗記していました。
なんだかさらに話が拡散してしまい申し訳ないのですが、総論はこの程度にして、次回からは科目別の取り組みや使用教材、今年張っていたヤマなどについてお示しできればと思います。
それではまた~。
今回の大事なポイント
今自分がどのレベルにいるか把握し、次のレベルに上がるために必要な努力をしよう!
試験委員に気持ちよく答案を読んでもらおう!
*1:正直、今もわかってないことだらけです。
*2:このような理由から、私は百選はあまり使いませんでしたが、ほぼ全受験生が百選を読みこんでいることからも、他の受験生の共通理解を知らないリスクの回避のために取り組む選択肢はあるのかなと思います。
*3:きっと将来いい法曹になるには必須なんだと思います…
*4:お金返してほしいです
*5: 「論じるべき点が多岐にわたることから,各論点の体系的な位置付けを明確に意識した上,厚く論じるべきものと簡潔に論じるべきものを選別し,手際よく論じる必要があった。すなわち,甲及び乙の罪責を論じるに当たって検討すべき論点には,重要性の点において軽重があり,その重要度に応じて論じる必要があったが,これを考慮することなく,必ずしも重要とは認められない論点や結論が明らかな事項の論述に多くを費やしている答案が見受けられた。」(H29刑法)などの注意が示されています。
*6:残念ながらR1刑訴の設問1は私はこの行為規範を守れませんでした
*7:私は残り5分を切ると手が震えたり、あてはめが雑になる傾向があったため、1時間50分で起案を終了し、残りの時間は答案の見直しに使うようにしていました。
*8:添削者によく怒られましたが、私は「故意及び不法領得の意思は明らかである」という文言が大好きです。
*9:もっともさらに考えると、勉強を始めたばかりの人があのような相当長い文章を読んで、果たして理解できるのか、という点も気になります。(というか私もいまだにわからないところあるし…それは地頭の問題かもしれないですが。)やはりはじめは相当つらいのではないかと思います。とりあえず暗記を先行させてしまって、何度も趣旨実感を読むなかで理解が進むといいな…。というのが私の考えです。
時間のない人向けの司法試験・予備試験シリーズ ~勉強方法について(総論②基本方針の理由)~
前回のおさらい
前回は抽象的な基本方針(以下)をお示ししましたが、はたして「典型論点」、「基本的知識」、「有益だが必須ではない勉強」とは何か、お示しします~。
1-1 基本方針
1-1-1 典型論点の精度を高める(積極的方針)
過去問を勉強の中核に据え、典型論点にかかる基本的知識を確実に習得すること
1-1-2 目的達成に必要でない勉強をしない(消極的方針)
司法試験合格という目的に対して、有益だが必須ではない勉強をしないこと
1-2 基本方針の理由
1-2-1 私の考える司法試験
司法試験は、2時間という短い時間の中で、長文の事例を読み、結論を決めて自分なりの見解を試験委員に対して示す試験であり、基本的知識の理解(実質面)と、答案への表現の巧拙(形式面)の合計ポイントにより合否が決まる点取りゲームです*1が、試験前日までに合否はかなりの割合で決まっているように思われます。*2
ポイントに影響を及ぼす要素は前日までの積み上げと当日の不確実性であるところ、上記実質面、形式面のいずれについても、当日の体調などの不確実性はそれほど結果に寄与しない一方で*3、前日までの積み上げ(基本的知識の精度)が答案に大きく影響を与えると考えているからです。
1-2-2 典型論点の焼き増し出題による実質面への影響
現在の司法試験は新司法試験、旧司法試験、予備試験の焼き増し問題(以下、過去問で複数回出ている問題を私は「典型論点」と定義します)が相当程度出題されています。
そして、受験生は過去に出た問題の対策はそれなりに取り組んでくる傾向がありますので、典型論点はそれなりに準備してきます。
したがって私は、典型論点を確実に習得することが合格レベルに乗るための必須条件と考えています。
確実に習得するとは、典型論点に関する条文及びその趣旨、規範定立、あてはめまでの筋(これを私は「基本的知識」と定義します)を手が覚えている状態をいいます。
1-2-3 ノウハウ蓄積による形式面への影響
また、近年では、試験委員から相当程度詳細な「出題の趣旨」・「採点実感」が公表されることで受験生や予備校において模範的な解答の型に対する予見可能性が高まり、形式面においても受験生側のノウハウの蓄積がみられます。*4
私の個人的な感想ですが、上位答案集をみると、少なくとも新司法試験の始まった平成18年ころよりも平成28年以降のものの方が形式面で上位答案は似ているように感じます。
したがって、受験生の多くは形式面においても典型論点の書き方を準備する機会が与えられているといえます。
1-2-4 非典型論点への対応
ところで、司法試験には典型論点とはいえない未知の問題も必ずと言っていいほど出題されますが、受験生の多数は初見の問題は十分に書けないことが多いため、非典型論点の出来不出来は合否にそれ程影響しません。*5
すなわち、多数の受験生は典型論点(+プチ応用問題)の演技の巧拙を競っており、この点が合否に大きな影響を与えていると私は考えています。*6
1-2-5 まとめ
典型論点暗記のすすめ
すでに述べたとおり、典型論点は、過去問で書くべき内容や書き方が一度出ているため、練習さえ積めば思考時間をかけずほぼ自動筆記で答案を作成することが可能となる「サービス問題」です。
したがって、私は基本方針として過去問で出た典型問題にかかる基本的知識を確実に習得し(暗記はパワー!)、答案に示す練習を何度も積んでおくこととしました。(これを私は「必須の勉強」と定義します)
典型論点の処理方法を覚えてしまうと、思考時間や労力の節約になること(頭でなく手で書いている感覚)と、試験委員がどこに時間をかけてほしいかが見えてくるという利点があると思います。
非典型論点について
他方、非典型問題(典型論点でない問題をいいます)は、当てようと思ってヤマを当てられる可能性が低く、マニアックな勉強をしがちになることも多いことから、勉強時間や労力に対するパフォーマンスが高くありません(私は、細かい知識を突き詰める勉強を「有益だが必須ではない勉強」と定義します)*7
時間は有限であるところ、有益だが必須ではない勉強に取り組むことで、必須の勉強に割り当てる時間・労力が減少するため、典型論点が問題に占める割合が多い司法試験では、必須の勉強に特化している受験生に後れをとる可能性があります。
有益だが必須ではない勉強は、将来よき法曹となるためには必須(?)かもしれませんが、少なくとも司法試験に合格するためには目的必要性を欠きますので、まずは必須の勉強に集中するのがよいのではないかと思っています。*8
不安かもしれませんが、司法試験は点取りゲームと割り切って、有益だが必須でない勉強はやらない決断をしてください、マニアック問題よりも典型論点が出てくる可能性が高いため、それだけで合格が近づきます。*9
上記は本当か?(勉強方法の反省)
さて、このような基本方針のもと勉強を進めてきたのですが、果たして本当に典型論点をしっかりと習得する必要はあるのでしょうか…。そう思わされたのは以下のあいかわさんのツイートです。
典型問題を書かせるとこれでもかというほど完璧な答案を書く人が司法試験の問題になると崩壊するという話がある。典型問題が出る試験と難しいとされる試験では求められる能力が全く違う。
— Takumi-Aikawa(公法1位論文16位全科目Aの司法試験合格アドバイザー)19 (@TA_legal32) September 8, 2019
私は典型問題を完璧に書くことはあらかじめ放棄していました。私が点を取りたかったのは司法試験だったからです。試験委員は簡単なことは聞いてこない。ならば簡単なことは難問を解くのに必要な限度で学べばよい。
— Takumi-Aikawa(公法1位論文16位全科目Aの司法試験合格アドバイザー)19 (@TA_legal32) September 8, 2019
うーん、あいかわさんの言うことならそうなのかもしれない…私もブログめちゃ読んで勉強させてもらってるし…(妄信)。
たしかに、司法試験の問題が解けるようになるには、司法試験の問題を解くのが最短距離だと思いますし、思い出してみると典型論点をスタンダード100を使って覚えていたとき、司法試験の問題を見ても正直さっぱりわからないなあと思うことが多かったかも…。
※追記
よく読むと私に勘違いがありそうです。前提として私は典型論点(問題)=過去問(新旧司法試験・予備試験)で複数回出た問題のことを指していますが、あいかわさんはおそらく典型論点≠司法試験の問題という括りのようです(たぶん)。なので、司法試験の過去問使って勉強したほうがいいですよ、という点では同じではないかと思います。
私は結構愚直な(というか残念ながらあまり地頭がよくない)人間なので、典型論点の基本的知識が無意識レベルで身についていないと応用はできないような気がする…。やはり典型論点は一生懸命やってよかったと思います。もちろん、司法試験に出なそうなところはやりませんでしたけどね~。*10
他方、予備試験では典型論点がそのまま出たりするので、それを知らないと致命傷になりかねない気がします。ですので少なくとも予備試験合格のためには典型論点しっかりやっといた方がいいと思いますよ!*11
次回はもう少し具体的に何をしたかをお示しします。
それではまた~。
今回の大事なポイント
典型論点を勉強しよう(暗記はパワー!)
*1:法務省公表「司法試験の方式・内容等の在り方について」において、「論文式試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な学識並びに法的な分析,構成及び論述の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが……」とされています
*2:他方で、順位は当日の問題との相性や閃きも大いに結果に寄与すると思います
*3:インフルエンザで試験会場に行けないなどの場合は別ですが…。
*4:これを書くときはこれもセットで書いてね、これを書く前にそれを書くのはおかしいよね、みたいな答案の流れです。例えば原告適格を書くときに、まず個別法令みたあとで、個別的利益を切り出す、みたいな答案の流れです。
*5:もっとも、それが完全な現場思考問ではなく、覚えている規範を趣旨から展開すれば解けるプチ応用問題である場合には、この限りではないと思いますが…
*6:個人的な意見ですが、あまりに難しい、あるいはマニアックな問題は大虐殺が起きるため、かえって試験委員は採点に困るのではないでしょうか。試験委員が望むのは受験生の採点分布が美しいベル型カーブを形成することではないかと思います。平成18年から数年間の問題と近年の問題を見比べると、試験委員の受験生への期待度は年々下がってきているのでは…もとが異常だったと思いますが。
*7:非典型論点はあまり受験生の出来がよくないので、趣旨から考える、三段論法を厳守するなど形式面の遵守だけで典型問題よりも楽に点をとることができる側面もありますが…。
*8:もっとも、すでに必須の勉強を完璧にしたいわゆる上位層を除きます。
*9:一般に司法試験を受けようとする方は頭がいいと思うのですが、趣旨・実感に完璧に対応できる受験生は皆無であり、趣旨・実感に書いてある「…はほとんどいなかった」などの記載を読んで、そのような部分も勉強しなければならないと誤解し、マニアックな勉強に突き進んで自滅する方が多いように思います。
*10:大学受験のときにいきなり難しい数学の問題集に取り組んで泣いた記憶が…。
時間のない人向けの司法試験・予備試験シリーズ ~勉強方法について(総論①基本方針)~
はじめに
合格発表がありました。
司法試験の成績については別途公表させていただくとして、本シリーズでは私の勉強方法を共有するとともに、果たして改善点はなかったのかについて反省していきたいと思います。
私の属性
私は法学部卒ですが不真面目な学生でしたので、社会人になってから法律の勉強を始め、法科大学院には未修で入学しています*1
また、私はそれほど深い法律知識を持ち合わせていません。上位ローで展開されているらしい難しい議論や学説には全くついていけません。
ターゲット
本シリーズは、これから予備試験・司法試験の勉強を始めたい方や、行き詰りを感じている方であって、かつ時間のない方(社会人等)をターゲットにしています。
私は初学者のころ、情報、あるいは情報収集能力がなく、勉強がなかなか進まなかった経験があります。また、私は夜間ローに通っていましたが、社会人純粋未修者が多く、ロースクールに勉強のノウハウが蓄積されていませんでした。そこで、勉強を始めたばかりの方や、行き詰っている方の役に立ちたいと思って書いています。*2
大事なこと
なお、言うまでもないですが、勉強方法は人それぞれですので、私の勉強方法をとれば受かるなどというつもりは毛頭ありません。むしろ見聞きしたある方法を検証もせずに妄信することは有害になりかねません。ぜひ私の勉強方法を疑っていただき、自分に最適な勉強方法を見つける端緒としていただければと思います。
基本方針
勉強を始めてロースクールに入るまでの約1年間は何をすればいいのかわからず、各科目の基本書を読みながら予備試験の択一を解いたり、百選を買って読んでみたりしていました。
しかし、そもそも法律用語の意味がわからない、基本書が何を言っているのかわからない、百選の事案部分すらわからないなど*3、ひたすらに時間を空費する結果となりました。悲しいことですが当時の勉強は何一つ覚えていません。
そこで、ネットに上がっている合格者の勉強方法を読む、会社の司法試験合格者に勉強方法を聞く、司法試験の上位答案集を読み漁るなど、情報収集に努めた結果、以下の基本方針をとることとしました。
1 総論
1-1 基本方針
1-1-1 典型論点の精度を高める(積極的方針)
過去問を勉強の中核に据え、典型論点にかかる基本的知識を確実に習得すること
1-1-2 目的達成に必要でない勉強をしない(消極的方針)
司法試験合格という目的に対して、有益だが必須ではない勉強をしないこと
「典型論点」、「基本的知識」、「有益だが必須ではない勉強」など、意味不明瞭な言葉ばかりですね…。これは次の記事で説明させてください。
それではまた~。
今回の大事なポイント
合格者の勉強方法を妄信するのは危険!
実はそんなに法律のことわかっていない合格者もいるぞ!それっぽい答案が書けるだけ!
時間のない人向けの予備試験論文後から口述試験までの手引き
はじめに
私は昨年予備試験論文を初めて受験しましたが*1、全く勝手がわからず、論文発表後口述の準備でかなり焦りました。
社会人兼業受験生や、ローの課題に追われて時間をとれない専業受験生の方に向けて、もっとこうしておけばよかった…ということを何番煎じかわからないもののまとめておきますので、参考にしていただければ幸いです。
口述1位で受かりたいんや!みたいな方には全く意味のない記事です。時間がない!一日2時間勉強できればいいほう!!とにかく受かればいいんや!!という方向けです。
基本戦略
皆さんは口述再現を見たことがあるでしょうか。
論文合格後では予備校の口述模試に申し込む、辰巳の赤本青本を買うなどすれば手に入りますが、ネットで公開してくださっている方がいましたので私はそれを論文後に見ていました。
口述試験の流れはだいたい次のような感じです。いずれかの科目で法曹倫理が聞かれます。
(民事系)
訴訟物・趣旨・KG→保全→抗弁→立証方法・手続
(刑事系)
構成要件解釈→刑事手続
それほどサンプルがないので断言はできないのですが、口述再現(不合格の方)をみていると、民事系では訴訟物・請求の趣旨・請求原因事実で、刑事系では各論構成要件の解釈で躓くと、試験官に口述を通して厳しい追及を受け、点数が伸びにくい傾向にあるように思われます。これはいずれも試験の前半に聞かれる事項です。
他方、試験後半に聞かれる手続的な部分については上記の部分さえ無難にこなせていれば、なんとか誘導してもらえ、それほど悪い点にはならないようです。
そこで、基本戦略として、民事系では訴訟物・請求の趣旨・請求原因事実を、刑事系では各論構成要件を重点的に勉強することをおすすめします。
8月、9月にやっておくと楽なこと
私はこの時期2chを見て一喜一憂していましたが、反面教師にしてください。論文合格後口述までの2週間であまりにやることが多くて泣きそうになりました。
民事系では、大島本をまとめる作業をするとよいと思います。
私は以下のように各訴訟物・請求の趣旨・ブロックダイアグラムをA4で20ページほどにまとめた資料を作り、ひたすら暗記していました(暗記はパワーです)。
◎例1:貸金返還請求訴訟及びその附帯請求
請求の趣旨:被告は原告に対し、500万円、これに対する平成24年2月11日から平成25年2月10日までの年5分の約定による利息及びこれに対する平成25年2月11日から支払済みまで年1割5分の割合による金員を支払え。
訴訟物:消費貸借契約に基づく貸金返還請求権、利息契約に基づく利息請求権及び履行遅滞に基づく損害賠償請求権
①Xは、平成24年2月11日、Yに対し500万円を弁済期平成25年2月10日、利息年5%、遅延損害金年15%の約定で貸し付けた。 ②平成25年2月10日は経過した。 ※利息は到来でよいが、遅延損害金は経過が必要 |
|
|
◎例2:保証債務履行請求
請求の趣旨:被告は原告に対し、500万円を支払え。
訴訟物:保証契約に基づく保証債務履行請求権
※主債務に利息や遅延損害金がついていても、447条1項で訴訟物は1個である。
①Xは、平成24年2月11日、Aに対し500万円を弁済期平成25年2月10日の約定で貸し付けた。 ②XとYは、同日Yが①の借入金債務を保証する旨合意した。 ③Yの②の意思表示は書面による。 ④平成25年2月10日は到来した。 |
(主債務についての抗弁) (-消滅時効) ①平成29年2月11日は経過した。 ②Yは、平成29年3月1日、Xに対し、①の事項を援用するとの意思表示をした。 |
|
(弁済拒絶) ①相殺・取消・解除の原因事実 ②①の限度で本件保証債務の支払いを拒絶する。 |
※保証人は120条の取消権者ではない。 取消しの抗弁に対しては、449条により保証人の悪意が再抗弁となる。 |
|
(個人保証) 主債務は、Aが営む饅頭屋の営業資金として貸し付けられたものである(465条の6第1項) |
YはAと共同して事業を行う者である(465条の9)→これはせりあがる(商503)大島p226参照。 ※その他、公正証書による場合(465条の6第2項)などがある。 |
|
(情報提供義務) ①主債務は、Aが営む饅頭屋の営業資金として貸し付けられたものである。 ②Aは本件保証契約に先立ち、Yに対し「Aが所有する甲土地(評価額1000万円)についてXのために主債務の抵当権を設定する」旨の情報を提供したが、Aは当時甲土地を所有していなかった。 ③Yは②情報から、甲土地について主債務の抵当権が設定されるものと誤認し、それによってXに対し保証契約の申込み(承諾)の意思表示をした。 ④Xは、AがYに対し②の事実と異なる情報を提供したことを知っていた。 ⑤Yは平成25年2月17日、Xに対し本件保証契約を取り消す旨の意思表示をした。 |
|
改正法向けに最近修正したのですが、間違ってたらすみません。あとエクセル作りなおすのも面倒なのでWordの表をそのまま貼り付けました。見づらくてすみません。
こんな感じで20ページほどにまとめておくと、持ち運びに便利です。試験会場にも民事系はこれしか持って行っていません。
また、まとめる作業をすることにより民法や民訴法の知識がつくので、択一や論文の勉強にもなります。要件や論点落としが減ります。私は民法択一が60/75くらいだったのですが、予備口述を経てコンスタントに65-70/75がとれるようになりました。民訴もゴミクズレベルから脱却できました。
刑事系は、お持ちの刑法の基本書を通読しておくとよいと思います。私はローで使用していた基本刑法を読んでいました。
また、可能であれば刑事手続もさらっと把握しておくとよいでしょう。入門刑事手続法はとっても良いものです。
もしお金に余裕があれば、辰巳の青本・赤本を買って、過去問を読んでみてください。落ちたらお金の無駄と思うかもしれませんが、口述の試験がばっちりな人は民法・民訴・刑法・刑訴の基礎がばっちりになりますので、翌年の論文にも効果があります。
司法試験予備試験法律実務基礎科目ハンドブック〈1〉民事実務基礎
- 作者: 辰已法律研究所
- 出版社/メーカー: 辰已法律研究所
- 発売日: 2016/04/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
論文発表後
発表当日中にやること
辰巳に鬼電してください。他の予備校はネット申し込みができ、比較的余裕があるのですが、辰巳だけは電話か直接校舎で申し込みだったと思います。
私は発表PDFを見るのが5分ほど遅れたので、それから電話したのですが、18時すぎまで一切つながりませんでした。可能であれば直接校舎にいきましょう。
社会人にはとれない選択肢ですが…。
口述模試の重要性
口述模試は可能な限り申し込むべきだと思います。
予備校各社がヤマをあててくることはそれほどないのですが、予備口述は異常な緊張状態で行われる試験です。練習は多すぎるということはありません。*2
また、口述のフィードバックをもらうことで、勉強が進みます。
私は伊藤塾と資格スクエアに申し込みましたが、もっと申し込んでおけばよかったなと思っています。特に資格スクエアは若い先生が面談してくださったのですが、フィードバックがとても丁寧でうれしかったです。*3
私はこれに加えて、知り合いの予備合格者に数回面接練習をしてもらいました。
やることを絞る
さて、口述模試以外では、手に入れた口述再現集をひたすら読むこと以外は
すでに準備した大島まとめや、刑法・刑事手続をひたすら見直します(暗記は正義)。
これだけです。私はこれだけしかしていません。
時間のない人は変にいろいろなこと、特に細かな知識を広く浅くやろうとすると、何も見につかずに2週間を空費してしまうおそれがあります。やることを絞って集中しましょう。
口述当日
試験会場まで
私は東京在住のため、自宅から新浦安に向かいました。
伊藤塾が試験会場近くに自習会場を設けているので、そこで勉強すると良いです。
試験会場についた後は勉強はできないと思った方がいいでしょう。
受付をするまで自分がいつ受験できるかわからず、長丁場になる可能性があるため、おにぎりやチョコ、飲み物を近くのファミマで買ってから向かいましょう。
黙らないこと
体育館のようなところから発射台へ行き、呼ばれると小さな部屋に入り試験が始まります。聞き取りやすい声でゆっくりしゃべりましょう。論文合格者のためにプロが無料で指導してくれるボーナスタイムだと思ってください。
試験委員の人は誘導してくれます。味方です。「こいつを落としてやろう」と思っていないはず。しかし、誘導するにはこちらが何かを発言する必要があります。黙っていると誘導のしようがありません。「とにかく法的コミュニケーションができればOK」くらいに思っていれば良いと思います。
1日目終了後と2日目
私は2chを見てしまったのですが、あまりおすすめできません。一切のことが手につかなくなるからです。
基本事項だけを確認してさっさと寝てしまうのが良いと思います。
2日目終了後にはすさまじい全能感が得られます。私は司法試験後にこれほどの充足感は味わえませんでした。それほどの異常な緊張状態が2週間にわたって続く試験です。
口述試験が終わったらウィンタークラークなどもはじまりますが、まずはゆっくり休んで自分をねぎらってください。
平成30年予備試験口述試験刑事再現答案
登場人物は、
主査:30代女性
副査:40代男性
弁護士なりたいお君(私)
主査:では、事案を読み上げますので、よく聞いていてください。
Aが、現在外出中の一人暮らしBの住居のドア付近にガソリンをかけて焼損させました。
事案はよろしいですか?
はい。
主査:では、Aに何の罪が成立しますか?
現住建造物放火罪が成立します。(あっ、副査の人大きく頷いてるこういう身動きによる誘導は再現集で読んだやつや!)
主査:はい。では、どの時点で実行の着手が認められますか?
ガソリンをかけた時点です。
主査:それはなぜでしょうか。
えーと、ガソリンは引火しやすいので、まいただけで焼損を惹起する現実的危険性があるからです。
主査:そうですね(微笑)。では、次の事案に移ります。
ドア付近にかけたのは灯油であり、Aが火をつけなかった場合はどうですか?
その場合は、えー……と、まだ実行の着手はないので、何の罪も成立しないと思います。
主査:どうしてそう考えましたか?
灯油の場合は、ガソリンほど簡単に燃えるものではないので、ドアにかけただけではまだ結果発生の現実的危険性はないと考えたからです。
主査:わかりました。何の罪も成立しませんか?
あっ!!放火予備罪は成立します。(優しい誘導や)
主査:そうですね(微笑)。では次にいきますね。
Aは、所有者Bから同意を得て、B以外が住んでいない家に放火しました。この場合は何罪が成立しますか?
公共の危険が発生していれば、自己所有非現住建造物放火罪が成立します。
主査:どうして自己所有となるのですか?。
えーと、109条2項は、自己所有であれば物の処分ができるから軽く罰せられると考えられるところ、所有者の承諾を得ているのであれば自己の物と同視できるといえるからです。
主査:はい、わかりました。
それでは、次に中止未遂について聞いていきますね。
Aは、新聞紙に火をつけて放火しようとしていたところ、これを見つけた者が携帯電話で通報するようなそぶりで近づいてきました。
まず、この場合に、「自己の意思により」について、あなたはどのような基準から見て判断しますか?
えーと、その事情によって、一般人が通常犯行をやめるか…という基準です。(???)
主査:一般人……?どういうことでしょうか。どういう判断資料を使うんですか?
えーと、普通の犯罪者なら、その事情で犯行を中止するかどうか……という…。
主査:犯罪者!?
あっ、間違えました一般人です。えっと、一般的に犯行の障害となりうるかという基準です。(あっ!やばい訂正しよう。副査の人もなんとなく納得してない感じだな。誘導ありがたいけどわかんないな。)
主査:はい、わかりました。では、その基準を本件に当てはめてください。
えっと、通報者が向かってくるという事情は、通常の犯人なら、犯行を中止して逃げるような事情です。そうであれば、犯行を中止しても、自己の意思により、とはいえません。
主査:(困った顔)うーん、では、先ほどの事案で、Aが目撃者に放火を見せつけたいから犯行を止めていた場合はどうですか?
えっと、あの…その場合は…私の基準だと…。わざわざやめてるので……。すみません混乱してしまって。
(1、2分ほど、あれやこれやとあてはめを行うが、主査は粘り強く待ってくださる。副査はのけぞって、明らかに違うという様子を示してくださっている。)(あれ……事案なんだっけ?飛んじゃった……。)
主査:大丈夫です、落ち着いてくださいね。
次に、おっしゃった立場ではなく、犯人の立場に立つ基準だとどうなりますか?
(その後、主査の懇切丁寧な誘導で、なんとか答えにたどりついたようだが、自分で何を言ったかは思い出せない。これに加えて、別の立場(犯人の主観)によるあてはめも求められたが、これもグダグダ。)
主査:はい、わかりました(ニッコリ)。中止未遂については、あとでよく勉強しておいてください。
はい、申し訳ございません。(こんなに優しく指導してくださっているのに、不甲斐ない(涙)。)
主査:じゃあ次にいきますね。
13歳の証人Cに対し、証人尋問をする場合、Cが一人で不安というときに何かできないでしょうか。
えーと、保護者の付添いができます。
主査:はい、では、次に、被告人の妻Dに証人尋問をする場合に、Dが不安というときに何かできないでしょうか。(このあたりの質問はもっとちゃんとした聞き方だったが失念)
遮蔽措置があります。
主査:ほかにはありますか?
ビデオリンクもできると思います。
主査:はい、では遮蔽について伺っていきます。
被告人との間の遮蔽措置と、傍聴席との間の遮蔽措置、いずれの要件の方が厳格ですか?
えーと、傍聴席ですかね。(そんなのあるんだ…まあこれはみんな知らないだろうから適当に行くか。)
主査:それはなぜでしょうか。
あれっ、でも、被告人のような気もする……どっちだろう……。
やっぱり、被告人で……す。(あれ、二人とも微妙な感じだな、逆にしとこう。)
主査:うん、それはどうしてですか?
えーと……それは……それは……。(どっちにせよわからん)
主査:うん、被告人側はどういう理由で要件が厳しいのかな?
あっ!……被告人は反対尋問ができるので、証人の様子を見て、尋問を考えていく必要があるため、要件が厳格なんだと思います。
主査:そうですね。このあたりはよく復習しておいてくださいね。
(副査に対し)ありますか?
(副査黙礼)
では、以上となります。
ありがとうございました。(オワタ)
コメント
一日目終了後は、気が気じゃなくほぼ勉強できませんので注意してください。
二日目は出来はともかく、緊張もなく楽しんで受けることができました。終わった後はすさまじい達成感があります。これは司法試験では味わえませんでした(笑)
一日目二日目ともに、試験会場近くに伊藤塾が自習場所を設けてくれているので、早めに新浦安に行ってそこで勉強するとよいでしょう。
受かっていたから言えることですが、試験がおわってみると、口述試験は論文試験の合格者に対するご褒美的側面もあるなあと思いました。相当の行政リソースを割いて、プロが2対1で指導してくれる場でもあるので、とても勉強になりました。条文を大切にする姿勢など、翌年の本試験にもこの経験が生きたと思います。
1.対策
民事同様、前半に聞かれる実体法に勉強時間のほとんどをつぎ込みました。これらができていれば、その後の問題で少しくらい間違えていても善解してくれ、59にはならないだろうと踏んだからです。
残念ながら本番では中止未遂で大きく失敗しましたが、ここは他の受験生もなかなか厳しかったようで助かりました。
2.試験委員
二日目は完全に当たりでした。きわめて丁寧に誘導していただきましたが、うまく受け答えができない部分もあり情けない思いをしました。
平成30年予備試験口述試験民事再現答案
登場人物は、
主査:40代男性
副査:40代男性
弁護士なりたいお君(私)
主査と副査は逆かもしれません。
主査:パネルに書いてある事案を読み上げますので、よく見ていてください。
(おおむね以下の内容)
(XがYに彫刻を売却(本件売買契約)、YはZが代金支払債務を保証するとしてXと保証契約を締結(本件保証契約)Yは締結当時Zから「彫刻の売買の件」と書かれた委任状と、印鑑登録証明書(1年前のコピー)を所持していた。Xは彫刻を引き渡したが、Yは代金支払期日になっても債務をりこうしないため、Xの代理人PがZに訴訟を提起するという事案。)
よろしいですか?
はい。(基本的な問題の組み合わせだけど、緊張で頭が動かない……。)
主査:では、Zに対する訴訟の訴訟物を答えてください。
えー、あの……、申し上げます。保証契約に基づく保証債務履行請求権です。
主査:はい。結構です。では、請求原因を答えてください。
まず、Xは平成〇年〇月〇日、Yに対して本件彫刻を×万円で売った。
Yは、Yの売買代金債務を保証することをXとの間で保証、あ、保証の合意をした。
Yは保証の合意をZのためにすることを示した。
本件保証契約に先立ち、ZはYに本件保証契約についての代理権を授与した。
本件保証契約は書面によりされた。(二人ともピクリともしない……。間違ってる?)
あっ、平成〇年〇月〇日は到来した。です。
主査:うん、まあ、時的要素は置いておくとして、これは誰が何を保証しているの?
えーと、Zが売買代金支払い債務を保証しています。なので、Yは、Yの売買代金債務をZが保証することをXとの間で保証した、です。申し訳ございません。(わからん。)
主査:はい、それでは裏面に行きますね。
副査:ここからは私が説明しますね。
(おおむね以下の内容)
Zが代理権を否認したことを受けて、Xは110条の表見代理を主張することとした。なお、Zは、委任状や印鑑登録証明書について、別の彫刻の売買について代理権を与えたことは認めている。
よろしいですか?この場合の規範的要件を教えてください。
えーと、先ほどの要件に加えて、
XはYに代理権があると信じた。
Yは、本件保証契約にあたり、委任状と印鑑登録証明書のコピーを有していた。
Zは、Yに対し、彫刻の売買についての代理権を授与した。
です。
副査:今、110条の表見代理の要件事実を言ってくださったけど、そのうちで規範的要件はどれですか?
あっ!失礼いたしました!!無過失です!
副査:条文上、無過失と書いてありますか?
あっ!何度もすみません。正当な理由、です。(あかんわこれ)
副査:はい、そうですね。正当な理由というのが主要事実になりますか?
いえ、それを基礎づける評価根拠事実が主要事実となります。
副査:うん。では、本件において、正当な理由の評価障害事実としてZの代理人Qが主張すべき事実を教えてください。
えーと、印鑑登録証明書は1年前のコピーですので、これは別の彫刻の売買についてのものであると主張できると思います。
副査:はい、ほかにありますか?
えっ、他ですか……えーと、えーと……(30秒ほどパネルを裏返してみたりして悩む)。えーと、1年前であることと、コピーってことは先ほど申し上げましたよね……。(お手上げや)
副査:先ほど印鑑登録証明書についておっしゃってくださいましたが、委任状のほうはどうですか?
えーと、「彫刻の売買の件」とありますが……。(誘導されてもわからん)
副査:はい、それだけだとどの彫刻についての保証かわからない、ということもできそうですね。
あ!はい、そうですね。すみません……。(オワタ)
副査:はい、事案を進めますね。
(概ね以下の内容)
(Zは、Yから「Xは代金〇万円のことはもういい」と言われた。)
Qとしてどのような抗弁を主張しますか。
はい、免除の抗弁を主張します。(おっ、やっと主査の人がマルを付けている。さっきまで微動だにしなかったから、安心。)
副査:はい、そうですね。では、次に、Pは、Xから、Zは高額な彫刻を有している以外に資産はないが、これを他の者に引き渡そうとしていると聞きました。この場合において、Pとしてとっておくべき手段はなんですか?
金銭債権なので、彫刻の仮差押えをします。(保全これだけか)
副査:はい、そうですね。では次にいきますね
(概ね以下の内容)
契約締結の場におり、Xにとって有利な証言を引き出せそうなBがいるが、来月出国してしまいしばらく帰ってこない。
よろしいですか?Pとしては、何をしておくべきですか?
えーと、証人尋問……を……請求します。
副査:そんな時間はありますかね?
ないです!申し訳ございません。なので、Bにすぐに会いに行って書面を作ります。
副査:はい。その書面を何というかご存知ですか?
えー、陳述書です。(主査の方がマルをつけているな…)
副査:はい、その他には?
えー……、証拠保全を……します。
副査:そうですね、証拠保全ってどうやるか知っていますか?
えっ……あの、人を……呼ぶんだと思います……。
副査:まあ、裁判所に呼ぶんだよね。
はい!(オワタ)
副査:では、次です。
(概ね以下の内容)
(YとZはQに対し、「本件についてはYが悪かったと思っている。ついては、両者の代理人となってうまくまとめてほしい」との依頼を受けた。)
Qは、これを受けるべきか、職務基本規程上、問題となる条文はありますか?
はい、えーと、27条……に利益相反の規定があったと思います。
副査:はい、本件では利益が相反しているといえますか?
えーと、今はしていませんが、審理が進むにしたがってYが非を認めない立場に転じることもあり得るので、その場合に利益相反のおそれがあります。
ですので、依頼を受けるべきではないと思います。
副査:まあ、そうですね。
(主査に向かって)ありますか?
(主査黙礼)
では、以上となります。
ありがとうございました。(謎の達成感)
コメント
一日目は民事でした。
簡単な事案の組み合わせだったのですが、極度の緊張で、言ったそばから発言内容を忘れていきました(請求原因など)。
1.対策
私は社会人受験生で論文発表後時間がないので、訴訟物、請求の趣旨及び要件事実を確実に言えるようになることに全力を注ぐ戦略をとりました。試験の前半で躓くとその後も追及が厳しくなるからです。また、訴訟の細かい手続などは知らなくて当然、試験委員に教えてもらう場だと割り切りました。
2.予備校の模試
絶対に試験前に予備校各社の模試を受けてください。また、知り合いに経験者がいれば可能な限り練習をさせてもらうとよいでしょう。
辰巳は、論文発表の16時ころから電話回線がパンクします。私が辰巳につながったのは結局18時以降で、すでに口述模試は定員になっていました。
辰巳で受けたい人は校舎に直接行くといいらしいです。
ただ、口述模試はどこかしらでは受けられます。私は伊藤塾と資格スクエアで受けることができました。資格スクエアはフィードバックがかなり丁寧なのでおすすめです。
3.試験委員
最後に、試験委員ガチャに当たるように日頃から善行を重ねてください。
部屋によって試験の進みが違うのですが、たぶん進みが速いほうが追及が少ないので当たりだと思います(私は両日速かったです)。
また、1日目の試験委員は何を応えても反応がほぼなかったのですが、2日目の副査は大きく頷いたり、首を傾げたりして誘導してくれました。このあたりも、試験委員の方によって違います。