令和元年司法試験憲法再現答案

第1、法案2条1号について

1.法案2条1号が「虚偽表現」について限定をせず一般的に規制対象とすることが、過度に広範な規制として、憲法(以下略)21条1項に反し文面上違憲とならないか。

2.過度に広範なゆえ無効

(1)過度に広範な規定は、表現の事由に対する委縮効果が大きく、合憲部分と意見部分が明確に区別できない場合は違憲となる。

(2)本件では、上記の通りおよそすべての虚偽表現を規制対象とするものであり、表現の自由の制約が重大であるから、過度に広範ゆえに違憲といえるが、判例は、合憲限定解釈を行うことで、違憲判断を回避している。

そこで、法案2条1号についても、虚偽表現のうち、人の生命身体財産に重大な損害を与える明らかに差し迫った危険などと限定解釈することも可能であろうが、立法段階では、範囲を限定する規定とすべきである。

(3)したがって、法案2条1号は違憲である。

第2、法案6条について

1.法案6条は、SNS利用者の表現発信の自由(21条1項)に反し違憲とならないか。

2.21条1項は、表現の自由を保障するところ、思想の自由市場に様々な情報が出てくるからこそ真理が発見できるのであり、重要な権利といえる。

本件では虚偽表現を一律に発信禁止とするものであり、内容着目規制であり、上記自由の重大な制約である。

また、本件では、網羅的一般的な審査がされないため検閲にはあたらないものの、表現を事前に抑制するものである。判例は、事前抑制について性質上行政の恣意的運営がされやすく広範にわたりやすいため委縮効果が大きく、厳格かつ明確な要件のもとにのみ許されるとしており、具体的には、反事実・反公益の明白性及び回復不能な損害を要件に名誉棄損表現の差止めを認めている。そこで、法案6条も、これに比類する厳格な審査によるべきであり、規制目的が真にやむを得ず、規制手段が必要最小限でなければ違憲と解する。

3.事案の検討

(1)目的は、過去に虚偽表現により社会的混乱が生じたという立法事実から、そのような混乱を防止する点にあると考えられる。これについては、その混乱が市民の生命身体財産などの重要な法益に関する危険を防止する限りにおいては、真にやむを得ないといえる。

(2)他方、その手段は、SNS利用者をはじめ虚偽表現を行う者の表現の一切の禁止である。たしかに、これはフェイクニュースによる社会的混乱は防止するのに役立つとはいえる。しかし、思想の自由市場が大きくゆがめられるものであり、過剰な手段といえる。また、SNSは従来の報道と異なり、個人が社会に対し即時性をもって自らの意見を発信することができるプラットフォームであり、多様な情報は自由市場において吟味されるべきであり、自由市場に出る前から規制されるべきではない。さらに、個人が発信するという性質上、情報の受け手としても、ある程度のリテラシーが求められるのであり、個人に対してすべての情報の正確性を担保させるのは不可能であり、過剰な手段といえる。

(3)以上より、手段が必要最小限とはいえず、法案6条は21条1項に反し違憲である。

第3、法案9条について

1.法案9条がSNS事業者の情報流通の自由(21条1項)に反し違憲といえないか。

2.情報流通の自由

(1)まず、判例は、表現の自由の保障を思想の外部的伝達に限定しており、単なる情報流通基盤の提供者には21条の保障が及ばないとの反論がある。

(2)もっとも、判例は、報道機関の事実の報道の自由を、国民の知る権利に資するとして21条1項の保護下においている。

本件でも、SNS事業者などのプラットフォーマーは、個人の表現発信を思想の自由市場に展開する機能を有しており、国民の知る自由に寄与しているから、情報流通の自由も21条1項の下にある。

3.プラットフォーマーの権利と責任

(1)法案9条は、上記自由を直接的に制約するものとして、厳格な規制が及ぶとも思える。

(2)しかし、報道機関は法令上、正確な情報の報道を求められている。上述の通り、SNSは個人が自らの思想を即時的に発信することができ、受け手が即時にそれを受け取ることができるという、これまでの報道機関と異なる特殊性があるが、報道機関と比して虚偽情報展開のおそれが強い。そこで、SNS事業者などのプラットフォーマーは、報道機関の真実報道義務と同様に、ゲートキーパーとしての責任を負っており、その限度で上記自由も一定の制約を受けざるを得ないため、審査基準も緩和されると解する。

したがって、目的が重要であり、手段が必要かつ合理的でない限り違憲と解する。

3.事案の検討

(1)規制目的は、過去に現職の知事がフェイクニュースの影響を受けて落選したという立法事実を受け、選挙の公正を確保することにある。これは、国民の適切な選挙権(15条)行使を担保するため、また、選挙権と表裏にある被選挙権の担保のために重要な目的であるといえる。

(2)また、手段としても、SNS事業者に事後的に虚偽表現を削除させるものであるが、これは、選挙の制度に関する制約にすぎず、SNSを利用する投票者や候補者に対して、選挙権行使などを認めないものではない。また、むしろ規制なしでは、公正な選挙を確保することは不可能である。さらに、法案9条1項は虚偽表現かつ選挙の公正を害することが明確である場合にのみ削除を認めており、その明白性の最終判断者はフェイクニュース規制委員会という第三者機関である。委員会は、政党が重複しないよう配慮されており(15条4項)、改選の仕組みもある(5項)ため、ある程度の適切性も担保されている。

(3)したがって、手段としても必要かつ合理的であるといえ、法案9条1項は合憲であるが、委員にSNS事業者を入れることが委員会の一層の適切性担保のために好ましい。

以上

 

コメント

司法試験受験翌週中に作成したため、再現度は80%以上です。こんな出来でも予備はAだったんですよ……

  • あてはめがひどい(事実拾わなすぎ)
  • 事前抑制にしてしまっている
  • SNS事業者から権利設定したのはまあ許されると思うが、直前に『情報法概説』や『ITと憲法』を中途半端に読んだため、不正確な知識を露呈
  • よくわからなかったため残念な評価になると思う
  • 誤字脱字等ご容赦ください