令和元年司法試験民法再現答案

設問1

1.甲建物の所有者について

(1)AB間の請負契約(民法632条)において、どちらに所有権が帰属するかが問題となるところ、請負人の報酬債権を担保する必要があること、及び246条の加工の法理により、原則として材料提供者に所有権が帰属する。もっとも、特約があればそれに従い、報酬の大部分が事前に支払われる場合には、所有権は注文者に帰属するという特約が当事者の契約にかかる意思解釈上推認されると解する。

(2)本件では、材料をすべて調達しているのは請負人Bであり、Bに所有権が帰属するとも思える。しかし、契約上引き渡し日までに80%という代金の大部分が支払われる条件となっており、すでにAはBに対し現に代金の80%相当の2億8800万円を支払っている。したがって、報酬の大部分が支払われており、所有権はAに帰属するとの特約が推認できるため、所有権は注文者Aにある。

2.損害賠償の可否について

(1)716条による責任

Aは注文者であり、請負人Bは本件事故によりCに損害を与えている。もっとも、注文または指図に過失があったとはいえず、同条によっては責任を負わない。

(2)709条に基づく責任

また、709条によったとしても、Aに故意または過失があったとはいえず、同条による責任も認められない。

(3)717条1項に基づく責任

ア そこで所有者Aの無過失責任を定める717条1項の適用が問題となる。「土地の工作物」とは、土地に密着して存在している物をいうところ、甲建物は土地に密着して建っておりこれをみたす。

イ 「瑕疵」とは、工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

本件では、甲建物は建築資材の欠陥により、震度5弱地震で損傷しており甲建物は通常有すべき安全性を欠いており、「瑕疵」が認められる。

ウ 上記瑕疵により、Cに治療費相当の損害が生じており、損害及び因果関係も明らかである。

エ 引渡し前であるため請負人Bは「占有者」であるところ、Bが「必要な注意」、すなわち過失がなければ所有者Aが責任を負うこととなる。

本件請負に用いられた建築資材は、定評があり、多くの物件に使われてきたものであるところ、その欠陥の原因は製造業者において検査漏れがあり、甲建物にたまたまそのようなものが用いられていたことにあった。建築業者としては、外見上明らかな欠陥がない限りは、検査漏れがあったものかを見分けることは難しく、そこまでの確認調査義務は求められず、出荷された物をそのまま使用したとしても過失、すなわち「必要な注意」を怠ったとはいえない。

したがって、「必要な注意」が認められる。

オ 以上、所有者であるAが無過失責任を負い、CはAに対し責任を追及できる。

設問2

1.Hの主張

(1)HはDと乙建物の売買契約(555条)を締結しており、所有権が移転している。

(2)賃借人のEは引き渡しを受けているため、その賃借権を対抗しうる(借地借家法31条1項)。その場合、賃貸人たる地位は、状態債務として当然にHに移転することとなる。

(3)新たな所有者が賃借人から賃料を受け取るには、二重払いの危険の防止から所有権移転登記が必要であるところ、Hはこれを具備しており、賃料を受け取る地位も有している。

(4)したがって、賃料をEから受け取ることができる。

2.Fの主張

(1)将来債権譲渡も可能であり、将来債権は一括して移転するため、通知時に対抗要件を得ることとなる。

(2)したがって、Hに対しても対抗することができる。

3.いずれが正当か

(1)将来債権譲渡の可否

ア 将来債権譲渡については、まず始期及び終期を明確にするなど特定していることを要する。

本件では、賃料債権について始期平成28年9月から終期令和10年8月分までと特定されており、特定性に欠けることはない。

イ また、将来債権譲渡であっても、その不履行のリスクは当事者間で解決すべきであり、公序良俗に反するような譲渡でない限りは、有効であると解する。

本件では、譲渡期間も12年程度であり、過度に他の債権者の回収可能性を過度に害するとはいえず、公序良俗に反するとはいえないため、将来債権譲渡は有効である。

(2)そして、将来債権譲渡は、その譲渡契約時に将来債権譲渡も含め一括して移転されることとなる。そこで、Fが平成28年8月4日付でEに対して通知を行ったことにより、第三者対抗要件も具備している(467条1項)。

したがって、Fは賃料債権譲渡をHに対抗することができる。

(3)また、Dは、Hに対しては、債権譲渡契約(555条)に基づく債務として、Fに賃料債権を得させるという債務を負う地位を有しているところ、賃貸人たる地位が状態債務として当然にHに移転したように、上記の地位もHに当然移転するため、Hは賃料債権をFに得させる義務を負う。

(4)したがって、Fの主張が正当である。

設問3

1.「錯誤」(95条本文)

(1)Hは、本件債務引受契約の錯誤無効を主張する。

(2)「錯誤」とは、効果意思と表示の不一致を表意者が認識していないことをいうところ、本件では債務引受けをするという効果意思と表示に不一致はないため、このような錯誤の無効主張が認められるか。

2.動機の錯誤

(1)動機の錯誤についても表意者の保護という95条の趣旨は妥当する一方、相手方の保護も図る必要がある。そこで、これらの調和の観点から、動機が相手方に明示又は黙示に表示され、当事者の意思解釈上契約の内容となっているのであれば、動機の錯誤も「錯誤」にあたると解する。

(2)本件では、Hから明示に賃料を乙建物から得られるから債務を引き受けるという動機は示されていない。しかし、D、G及びHの協議において、Gから、乙建物の買主は長期の安定した賃料収入を見込めるとの発言があり、Hもこれを受けて賃料が得られることを認識しているから、黙示に表示がなされていたといえる。

また、3者契約では、HがDのGに対する債務を引き受けることとなっているところ、乙建物の購入価格は賃料の収益性を勘案したものとなっており、契約の合意形成過程では、賃料収入を買主が得られることが、当事者の意思解釈上契約の内容となっていたといえる。

したがって、「錯誤」にあたる。

3.要素の錯誤

(1)「要素」の「錯誤」とは、そのような錯誤がなければ当事者は意思表示しなかったであろうこと、及び一般人もしなかったであろうことをいう。

(2)本件では、Hは、賃料収入を得られるからこそ、乙建物を6000万円で購入するとともに、同額の債務をDから引き受けている。そして、本件債務引受契約上は、HはGに以後10年間毎月20万円を支払うこととなっているところ、上述のとおり、Hは収益性を勘案して乙建物を購入しているから、その賃料25万円の収入がなければ、このような契約をHがするとはいえない。

また、一般人であっても、収益なく支払いだけが発生する契約をするとはいえない。

したがって、「要素」の「錯誤」にあたる。

4.Gにも相錯誤があったといえるから、ただし書きの適用はない。

5.以上、Hは、本件債務引受契約の無効を主張できる。

以上

 

コメント

司法試験受験翌週中に作成したため、再現度は80%以上です。5枚半ほど。

出来は悪いです。特に設問2……

設問1について

みんなしっかり書いてきそうですね。私はあてはめガバガバなのでやばい……。

設問2について

 予備H25で将来債権譲渡出てたな……でもなに書けばいいの……公序良俗に反しているとか?いやない……F絶対勝つんじゃないの……?何か……何か書かなきゃ……と悩んだ結果邪神が下りてきてしまいました。3(3)はグロ注意。

設問3について

 三社契約をうまく使えず……受験新法読んだら錯誤じゃないとか書いてあって汗。でもみんな錯誤書いてるっぽいので(私のあてはめの稚拙さはともかく)そんなに差はつかないのでは……?

 

うう……民事系駄目だと落ちちゃう……