令和元年司法試験会社法再現答案

設問1

1.自ら招集する場合

(1)乙社が臨時株主総会を自ら招集する場合、会社法(以下略)297条1項によることとなる。

(2)まず、乙社は、甲社株式を平成29年5月時点で4%保有しており、議決権の百分の三以上を6か月以上保有している(同1項)。

(3)そこで、乙社は甲社に臨時株主総会の開催を請求し、その後遅滞なく招集が行われない場合又は請求から8週間以内の総会開催にかかる通知がされない場合(同4項1号2号)には、自ら株主総会を招集することとなる。

(4)その場合は、乙社は298条1項各号の事項を定め、株主に招集通知および参考書類を発送する(299条1項、301条1項、302条1項)。

2.株主提案権を行使する場合

(1)乙社は甲社定時株主総会にて議題の株主提案を行うとともに(303条1項)、議案の要領の株主への通知請求権を行使する。

(2)甲社は取締役会設置会社であるため(327条1項2号)、持株要件が必要であるところ(303条2項)、上述の通り乙社はこれを満たしている。

(3)同様に、305条ただし書きの要件もみたす。

(4)したがって、乙社は甲社に対し上記の請求を行うことができる。

3.比較検討

(1)自ら臨時総会を行う場合、招集手続などが煩雑であるというデメリットはあるが、機動的に招集を行うことができる。

(2)他方、定時株主総会において株主提案権を行使する場合は、手続きの容易さや、持株要件が臨時総会招集よりも緩やかであるというメリットはあるが、甲社は基準日を3月31日としており、6月総会まで待つ必要があるため機動性に欠ける。また、これを待つ間に新株発行などによって持分の希釈化が起こることもあり、安定性にも欠ける。

(3)したがって、臨時総会の招集を行うべきである。

設問2

1.乙社の主張

乙社は、本件差別的行使条件付きの新株予約権無償割り当てについて、①その発行が109条1項の法令違反として、または②著しく不公正として、新株予約権の発行差止め(247条1号2号)を請求する。

2.247条1項の適用可否

(1)まず、新株予約権無償割当てに247条を適用しうるか。

(2)同条は「発行」のみを定めており、無償割当てに直接適用はされない。もっとも、同条の趣旨は、株主の地位に変動が生じることを防止する点にある。そこで、無償割当てであっても株主の地位に変動が生じうる場合には同条の類推適用が可能と解する。

(3)本件では、本件新株予約権無償割当てには乙社に対する差別的行使条件が付されており、乙社のみが新株予約権を行使することができない。そこで、乙社には持分希釈化リスクが顕在化した場合に株主の地位に変動が生じうる。

(4)したがって、247条を類推適用することができる。

3.109条1項適用可否

(1)また、新株予約権に株主平等原則が適用されうるのか問題となる(109条1項)。

(2)同項も「株式」と規定しており、必ずしも新株予約権に株主平等原則が適用されるとはいえない。しかし、278条2項は新株予約権の平等も想定した規定となっていることから、新株予約権にも109条1項が適用されると解する。

(3)したがって、新株予約券無償割当てに対する株主平等原則違反を主張しうる。

4.109条1項違反該当性

(1)そこで、差別的行使条件付新株予約権無償割当てが109条1項に反し「法令」違反(247条1号)といえるか。

(2)109条1項の趣旨は、投資に対する収益予見可能性を高めて、投資を呼び込み企業価値を向上させる点にある。そして、企業価値の向上は最終的には企業の持主である株主自身によって判断されるべきである。そこで、企業価値が損なわれるおそれがあると株主が判断したときであって、かつ、特定株主に著しい損失を生じさせない程度であれば、差別的行使条件付新株予約権無償割当ても109条1項には反しないと解する。

本件では、乙社がP倉庫を売却する株主提案をしたことに端を発して、乙社の株式取得について取締役会で議論がなされているところ、乙社が過去に対象会社の資産を切り売りして、一時的な利益を得るという投資手法を得ていたという意見が出ており、また、事務用品の製造販売という甲社の目的に無理解である乙社代表社員の発言などから、P倉庫など、会社資産の切り売りが懸念された。そこで甲社は株主総会において乙社の甲社株買い増しが企業価値を毀損することから本件割当てを上程し、同総会では、議決権の90%を有する株主が出席するとともに、乙社が反対だとすれば、それ以外の大多数の株主が賛成したものといえ、株主自身が、乙社の株買い増しが甲社の企業価値を毀損させると判断したものといえる。

また、行使条件(8)により、乙社は新株予約権を行使できないところ、乙社の新株予約権行使の対価は1円であること、また、乙社と甲社でこれ以上の買い増しをしない確約がされた場合には、すべての新株予約権が甲社に無償取得される条項が付されており、乙社に対して財産的損害が著しいものとはいえない。

したがって、株主が企業価値毀損を判断し、かつ、特定株主に著しい損失が生じるものではないといえる。

(3)以上、本件割当ては109条1項に反さず、「法令」違反とはいえない。

5.247条2号該当性

(1)「著しく不公正」とは、不当な発行目的で新株予約権が発行されることをいう。そして、取締役会が経営支配権維持目的で行う発行は、機関権限配秩序に反し、不当な発行目的といえる。

(2)もっとも、本件では、甲社の所有者である株主が総会において無償割当てを決議しているのであるから、機関権限分配秩序に反することはなく、不当な発行目的があったとはいえない。

(3)したがって、247条2号違反も認められない。

6.以上、乙社の主張は認められず、差止めは認められない。

設問3

1.本件決議1の効力

(1)P倉庫の価格は15億円であり、甲社の総資産額250億円や年間売上高300億円の5%程度と相当の価格であり甲社の財務状況に影響を与えうるため、「重要な財産の処分」(362条4項1号)にあたる。そこで、取締役会決議事項となっているものを株主総会で決議することが可能か問題となる。

(2)同行の趣旨は会社の重要事項を取締役会に決定させる点にあるが、上述の通り、会社の最終的な意思決定者は所有者たる株主にあるため、取締役会決議事項とされているものについても、株主が決議することが可能と解する。

(3)したがって、決議1は有効である。

2.Aの責任(423条1項)

(1)代表取締役たるAは「役員等」にあたる(423条1項)。

(2)「任務を怠った」とは、善管注意義務違反(330条、民法644条、355条)をいう。もっとも本件では、P倉庫の売却は経営判断が及ぶ事項といえる。

すなわち、企業経営にはリスクが生じるものであるから、過度な結果責任の追及は経営の萎縮を招く。そこで、当該行為がなされた当時の一般的な経営者を基準として、判断過程及び判断結果に著しい不合理があった場合には善管注意義務違反が肯定される。

本件では、P倉庫の売却について取締役会に上程され、各取締役の議論が十分に交わされており、判断過程に著しい不合理があったとはいえない。

他方、AはP倉庫の速やかな売却を決断している。たしかに、売却については株主総会で決議がなされており、取締役は株主の意向に沿った執行を行う必要がある。また、社外取締役からも、適法な株主総会決議を常に順守すべきとの意見も出ている。しかし、取締役の義務は、株主の利益最大化である。そして、P倉庫は値下がりの兆候がない一方で、Q倉庫倒壊により、P倉庫を売却すると甲社には50億円以上の損害が生じることが見込まれている。そうだとすれば、株主利益最大化のために、P倉庫の売却を遅らせることが、通常経営者の判断であり、これに反して速やかな売却をしたAは、判断結果に著しい不合理があったといえる。

以上、任務を怠ったといえる。

(3)50億円の損害、相当因果関係も明らかであり、上記の通り善管注意義務違反がある以上、Aに過失(428条1項反対解釈)も認められる。

(4)したがって、Aは50億円の支払い義務を負う。

以上

 

コメント

司法試験受験翌週中に作成したため、再現度は80%以上です。6枚半ほど。

答案構成は30分程度で行っているのですが、途中答案の予感がしたので15分で書き始めました。

設問1について

何がききたかったのかな……?単純な手続問ってことでいいのかな?

設問2について

 あっチャレンジ(後掲の問題集)で見たやつだ!と思ったのですが、判例百選見ない派なので1円という買取価格をうまく利用できず、私の立場であれば反対事情にすべきところしていないというあてはめの大きなミス。

不公正発行については主要目的ルール使わない場合の処理がわからんのであっさり終えた。

設問3について

私の答案の流れだと、株主の決定が一番という感じだから、注意義務なしとするのが自然なのかな……?でも会社の企業価値向上⇒株主の利益がもっと大事な善管注意義務と、実質的に考えてみました。

 

 

事例で考える会社法 第2版 (法学教室ライブラリィ)

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会社法 第2版

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