令和元年司法試験民事訴訟法再現答案

 

設問1

1.課題(1)

(1)Yの解釈の根拠

Yの解釈は、本件契約に、B地方裁判所を専属的合意管轄とする定めがあるというものである(民事訴訟法(以下略)11条1項)。すなわち、本件定めは、本件契約という「一定の法律関係」に基づく訴えであり、かつ、契約書に記載があるため「書面」でなされている(11条2項)。

(2)立論

ア もっとも、本件定めは、A地方裁判所を管轄とするのに加えてB地方裁判所にも付加的に管轄を認める付加的合意管轄にすぎない。

イ すなわち、本件契約において、原状回復請求がなされた場合には、義務履行地たるA市が通常は管轄を有し、XとしてもA市裁判所に出訴すると考えられるため(5条1号、民法484条)、Xが、B市に専属的合意管轄を認める趣旨で「合意」をしたとはいえない。

ウ したがって、本件定めは付加的合意管轄の定めにすぎない。

2.課題(2)

(1)仮にYの解釈によるとしても、17条による移送を認めるべきである。

(2)本件では、当事者たるXはA市、Yは本店がB市に所在しているところ、Yは全国に支店を有し、A市にも販売店を有している。また、証拠となりうる本件車両はX方に保管されているとともに、A支店従業員は子供が想定外の使用をしたことを理由に債務不履行を認めていないため、同人を証人とする必要がある。これらの所在地もすべてA市にある。A市とB市は600km離れており、新幹線・在来線等を乗りついで約4時間かかる距離にあり、Xやその代理人Lにとっては毎回の期日出席に多額の費用を生じることとなる。他方でYはA支店があるため、A市裁判所での対応の負担は大きくない。また、証拠の所在地も上記の通りA市であるから、B市裁判所での証拠調べは訴訟を著しく遅滞させることとなる。さらに、Yは全国展開する法人であるため、個人であるXとの公平の観点からは、A市裁判所によることが適切である。

(3)したがって、17条によりA市裁判所への移送が認められるべきである。

設問2

1.自白(179条)の意義

(1)Yは事実④を撤回できるか、それぞれの訴訟物との関係で「自白」にあたるか問題となる。

(2)「自白」とは、口頭弁論期日又は弁論準備期日における相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述をいう。そして、不利益とは、基準の明確性から相手方に主張責任があることをいい、事実とは主要事実をいう。なぜなら、当事者の最終的な立証命題かつ主たる攻撃防御対象である法律効果の発生等に直接必要な主要事実について「自白」を認めれば、弁論主義の趣旨たる不意打ちの防止を図ることができるからである。

2.当初訴訟物との関係における自白の成否

(1)当初訴訟物は、履行遅滞による解除に基づく原状回復請求権である(民法545条1項、541条)である。

(2)この要件事実は、ア 売買契約の締結、イ 相手方の履行がないこと、ウ 同時履行の抗弁権(民法533条)消滅のための自己の債務の履行提供、エ 催告、相当期間経過及び解除の意思表示である。

(3)これを本件に即していえば、アは事実①、ウは事実②、エは事実⑥にあたる。他方、イについては、履行期が経過したのに債務の履行がないことが主要事実であって、⑤がこれにあたるといえる一方、④は単なる事情ないし⑤の間接事実にすぎない。

(4)したがって、当初訴訟物との関係では「自白」にあたらない。

3.追加訴訟物との関係における自白の成否

(1)訴えの変更(143条1項)により追加された訴訟物は、債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法415条)である。

(2)その要件事実は、ア 売買契約の締結、イ 債務不履行、ウ 損害およびその額、エ因果関係である。

(3)これを本件に即していえば、アは事実①、ウは事実⑧及び⑨となる。そして、415条の債務不履行の事実については、具体的態様の主張を要するため、本件車両のベッドの下敷きになり時計が損壊したという事実が主要事実となる。したがって、④はこれにあたり、追加訴訟物との関係では「自白」にあたることとなる。

4.訴え変更後の自白の撤回の可否

(1)自白が成立した場合、不要証効(179条)が生じるとともに、裁判所に対する拘束力も生じる(弁論主義第二原則)。そして、これにより相手方は立証の負担を免れるという地位が生じるため、その期待の保護から、当事者拘束力が信義則上生じることとなる。

(2)もっとも、弁論主義の機能は当事者に対する不意打ちの防止であるところ、当初は自白でなかった事実について、訴えの変更がなされたあとに自白となるのであれば、むしろその陳述をした者にとって不意打ちとなり、その保護を図る必要性が高い。したがって、訴え変更後に自白となりうる事実の陳述撤回は、信義則に反さず可能と解する。

(3)本件では、訴え変更後にYの事実④への陳述が自白となっており、Yにとって不意打ちであるから、Yはこれを撤回することができる。

設問3

1.220条4号ニ該当性

本件日記が自己利用文書(220条4号ニ)にあたれば、文書提出義務はない。自己利用文書とは、専ら自己のみの利用を想定している文書であって、かつ公開により重大な利益侵害が生じうるものをいう。

2.どのような観点からどのような事項を考慮すべきか。

(1)自己利用の観点

判例は、自己のみの利用という点について、銀行などの貸出稟議書など、業務として作成されたものであって、社内でのみ使用を予定する文書がこれにあたるものとしている。

本件日記は、たしかに甲シリーズの車両の不具合に関する情報が含まれているが、Tが個人的に作成したものであり、Yの業務として作成されたものとはいえず、Tが「自己」であり、Yの所有性は考慮すべきではない。

(2)重大な利益侵害の観点

判例は重大な利益侵害について、個人のプライバシーなどに重大な損害が生じる場合がこれにあたるとしている。

本件では、T所有の日記であるから、その公表によるTのプライバシー侵害については考慮すべきであるが、Yへの財産的損害などについては考慮すべきではない。

以上

 

コメント

司法試験受験翌週中に作成したため、再現度は80%以上です。5枚ほど。

なんでや!文書提出命令去年出したやん!もう10年は出ないだろうということで一切やってなかった……。管轄も、昨年度の試験設問1で管轄書いちゃった人が多かったからですかね……性格悪いよ。

設問1について

類推適用に気づかないミス。

設問2について

 良問(できたとは言っていない)。

あれ……不完全履行の場合は何を主張すべきなんだっけ……と思考停止してしまい、事情ないし間接事実とかよくわからないことを書いてしまいました。

履行遅滞では、弁済期経過を主張して、相手の弁済の抗弁を否定する間接事実?になると思うんですけど、不完全履行のときはどうなんだろう……訴状で事情として書かないのかな……などと問題文から離れた妄想の果てにグロ注意答案になっています。

訴えの変更後については、因果関係で書いている人が多いのか……そうだよなあ……。

やばい。

設問3について

オ ワ タ

感想文を書きました