平成30年予備試験民法再現答案

第1、設問1

1.債務不履行に基づく請求

(1)請求の根拠

ア Aは、雇用契約民法(以下略)623条)の付随義務としての安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求(415条)をする。

イ まず、AとCには直接の契約関係はない。しかし、CはBに雇用されており、AはBと本件家屋の解体作業につき請負契約を締結し、その業務を請け負わせていた。そして、Cは、A及びBに対し作業指示を与えており、実質的にはCとAの間にも雇用関係があったといえる。

ウ Cは、その従業員に対し雇用契約に基づく安全配慮義務を有しているといえる。そして、同様に、Aに対しても雇用契約の付随義務として、信義則上安全配慮義務を負うといえる。それにもかかわらず、Cは命綱や安全ネットを使用しておらず、安全配慮義務違反が認められる。

エ 相当因果関係及び損害は明らかである。

(2)有利・不利な点

ア 有利な点として、Cの故意又は過失について立証責任が転換されている。

イ 不利な点として、遅延損害金の起算日は請求日の翌日である平成29年7月1日からとなる(412条3項)。また、なにより、CとAとの間の直接の契約関係の認定が困難であるという点がある。

2.不法行為に基づく請求

(1)請求の根拠

Aの請求の根拠は、709条に基づく損害賠償請求権及び715条に基づく損害賠償請求権が考えられる。

ア 709条に基づく請求

(ア)Aは、転落事故により、身体という権利利益に侵害を受け、損害を受けた。

(イ)Cは、個人で建築業を請け負っていることから、7メートルもの高さでの解体工事においては、落下による身体の傷害が生じるおそれがあることについて予見できたといえ、命綱や安全ネットによって自己を防止する結果回避義務があるといえる。それにもかかわらず、Cは当該措置を怠っており、過失が認められる。

(ウ)損害及び相当因果関係は明らかである。

イ 715条に基づく請求

Cは、解体「事業」のために、Bを「使用」している。そして、Bは、解体「事業の執行について」、Cを転落させ、損害を負わせている。

ウ 709条、715条共通の要件について

AがC不法行為による請求をしたのは、平成29年6月30日である一方、損害を負ったのは平成26年2月1日であり、「損害及び加害者を知ったとき」(724条)の意義が問題となるところ、被害者保護と、加害者の期待の調和の観点から、損害賠償ができる程度に損害と加害者を知ったときをいうと解する。

もっとも本件では、Aは事故後記憶を喪失しており、損害及び加害者を知ったのは、Dから聞いた平成26年10月1日である。

本件では、Aは人損を負っており、消滅時効期間は「損害及び加害者を知ったとき」(724条)から5年となる。

したがって、いまだ時効期間は経過しておらず、損害賠償が可能である。

(2)有利・不利な点

ア 有利な点として、遅延損害金は不法行為時からとなる。

イ 不利な点として、時効期間が415条による場合より短い。また、709条に基づく請求の場合は、故意又は過失を立証する必要がある。

第2、設問2

1.(ア)について

(1)離婚(736条以下)には、効力要件として離婚意思、手続要件として届出(764条、739条)が必要である。

(2)そして、離婚意思とは、単に離婚をする届出意思で足りる。

本件では、Fは、Cの申出に基づいて離婚を了承しており、両者に離婚意思が認められる。

また、届出もなされている。

(3)したがって、CからFへの財産分与は無効とは言えない。

2.(イ)について

(1)Aは、Fに対して詐害行為取消権(424条)を主張して財産分与を取り消し、かつ土地建物の返還請求をする(424条の6第1項)ことが考えられるところ、財産分与が「財産権を目的としない」行為(424条2項)といえないかが主たる問題点となる。他の要件も併せ検討する。

(2) Aは損害賠償請求権という被保全債権を有する。

(3) Cは無資力である。

(4) 詐害行為といえるかは、詐害意思との相関関係で決まる。そして、財産分与は、その「一切の事情」(768条3項)を考慮して決められるのであり、原則として「財産権を目的としない」行為にあたる。もっとも、財産分与に仮託して、執行を免れようとする処分を行う場合は、424条2項には当たらず、詐害行為として認められる。

本件では、Cは、このままでは差押えを受ける為、離婚しよう。本件建物は本来平等で分けるべきだが、確定的にFのものとして、引き続き生活したいと述べており、これは執行を免れるために、財産分与に仮託して行われた処分行為であるといえる。

したがって、詐害行為といえる。

(5)Cの悪意及びFが詐害行為時にAを害することについて知っていたことは明らかである。

(6)以上、Aは本件土地及び本件建物のいずれについても、Fを被告とした上でCに訴訟告知を行い(424条の7第1項第1号)、詐害行為取消権を行使することとなる。

(7)取消しの範囲として、Aは本件土地建物の価額を超える損害賠償請求権を有しており、かつ土地建物は不可分であるからその全部取消が可能である(424条の8第1項)。

以上

コメント

 

評価はAでした。また、改正法ベースに条文を直し、不要部分に取消線を引きました。筋は一緒です。

 

設問2は典型問題だったのでそれなりに書けたのがよかったのかもしれません。

設問1は、雇用契約の付随義務なのか請負契約の付随義務なのか迷いましたが、今になって思うとどっちでもよかったのかなと思います。