令和元年司法試験国際私法再現答案

第1問

設問1

1.性質決定

性質決定は国際私法の解釈問題であるから、国際私法独自の観点から行う。本件では、ABがDを養子とするものであるから、通則法(以下略)31条1項に性質決定される。

2.31条1項について

(1)同項本文は、連結基準を親の本国法としている。その趣旨は、養子は通常養親の下で生活すると考えられる点、また、各国の国籍法が養子に国籍を与えることとなっている点にある。他方、同項後段はセーフガード条項を定め、子の本国法を累積的に適用することで養子の保護を図っている。

(2)本件ではABによる共同養子縁組であり、それぞれの本国法を適用するが、いずれについても甲国籍であり、甲国法が準拠法となる。また、Dは日本国籍であるので、日本法が累積的に適用される。

3.先決問題

(1)ここで、日本民法上、15歳未満を縁組する場合には、「法定代理人」の代諾が必要(797条)であり、これが「承諾」(31条1項但し書き)となるところ、Cが法定代理人となるかが、先決問題となる。

(2)先決問題についても、法は法律問題ごとに性質決定を行うモザイク的構造を採用しているため、先決問題にも独自に国際私法を適用して性質決定を行う。

(3)CがDの法定代理人かは親子の法律関係にかかるものであり、32条に性質決定されるところ、同上は、親子の本国法が一致する場合に子の本国法を準拠法とする。

(4)したがって、Cの国籍が日本であれば、民法818条、820条、824条により親権者となり、法定代理人となる。

(5)そうであれば、Cの「承諾」が必要であるところ、本件ではCは縁組に同意しており、これをみたす。

4.特別養子縁組の決定審判の代行

(1)したがって、甲国民法①によれば養子縁組を行うことができるとも思うが、甲国では決定型養子縁組制度のみを採用しており、我が国は審判型の養子制度しか有していないため、手続の代行が問題となる。

(2)「手続は法定地法による」の原則から、法定地たる我が国でとりうる制度を代行して行うべきところ、本件では、Dは5歳であるから、特別養子縁組の成立審判(民法817条の2)を代行して縁組を行うこととなる。また、分割理論を採用し、縁組を裁判所が関与する部分と、縁組の届出の部分に分けて行うことも可能である。

5.手続については、34条に性質決定され、内容との密接関連性から法律行為の成立について適用すべき甲国法となる。

上記のとおり、代行により甲国法の手続きに準拠しているため、方式についても問題なく成立している。

6.以上、ABはDの縁組を日本において有効に行うことができる。

設問2

1.31条2項について

(1)上述と同様、縁組の成立については、31条1項により、それぞれAとBの本国法である甲国法と日本法に準拠法決定される。

(2)また、親族関係の断絶については、31条2項に性質決定される。同項は、関係の断絶は縁組の成立と密接であることから1項前段と同じ準拠法を用いることとしている。

本件では、甲国民法②によれば、養子と実方の親族関係は養子縁組により終了することとなる。

2.隠れた反致

(1)もっとも、甲国は管轄権アプローチを採用している。これは、当事者の住所が甲国にあるときには、甲国に管轄権を認め、甲国法を適用するものであり(③④)、そうだとすれば、住所が他国にある場合には、当該他国において他国の法を適用することが法に仕組まれていることとして、反致(41条本文)が成立すると解すべきである。

(2)本件では、BとDとの関係では甲国法が準拠法となるところ、これは「当事者の本国法」による場合であり、甲国国際私法は、上記の通り③④により、日本に住所のある者は日本法を適用することが仕組まれているため、「日本法によるべきとき」にあたる。段階的連結にもあたらず、反致が成立する(41条)。

(3)したがって、ABいずれについても日本法が適用されることとなり、普通養子縁組の許可審判を用いれば、CとDの親子関係を維持したまま縁組を行うことができる。

設問3小問1

1.性質決定

本件も、31条1項前段により、養親ABの本国法たる日本法に準拠法決定されるとともに、後段により、乙国法が累積的に適用されることとなる。

もっとも、乙国国際私法⑥は、反致を認めており、セーフガード条項に反致が成立するか問題となる。

2.セーフガード条項と反致

セーフガード条項の趣旨は、子の本国法を適用し、子の保護を図る点にある。そこで、反致をすると子の保護に欠けることとなり妥当ではないため、反致は成立しないと解する。

したがって、41条は適用されず、乙国法が適用される。

設問3小問2

1.Eは縁組に反対しているが、その承諾は「第三者の承諾」にあたるか。

2.上記の通り、31条1項後段趣旨は子の保護にある。そこで、子の保護に関係のない者は同項の趣旨に妥当せず「第三者」にあたらないと解する。

3.本件ではEが縁組に反対しているところ、その承諾の有無によってDの保護が厚くなるということはない。

4.したがって、Eは「第三者」に当たらず、Eの承諾は不要である。

第2問

1.①について

(1)性質決定

性質決定は国際私法の解釈問題であるから、国際私法独自の観点から行う。本件では、Xの「名誉」が「毀損」されており、これは人格権侵害であることから、通則法(以下略)19条に性質決定される。

(2)19条の趣旨

19条は、名誉棄損については、被害者の常居所地がもっとも影響を受けることから、連結基準を常居所地とする点にある。

本件では、Xは甲国に常居所地を有しているため、甲国法が準拠法となる。

(3)20条

もっとも、より密接な関係を有する地の法がある場合には予見可能性の見地から20条により、その地の法が準拠法となる。

本件ではXとYは常居所地を異にしており、また、契約関係から生じた不法行為でもないため、適用はない。

(4)また、21条は当事者の予見可能性の観点から事後の変更を認めるものだが、本件は準拠法合意もない。

(5)したがって、甲国法が準拠法となる。

2.②について

(1)性質決定

プライバシー侵害については、人格権を侵害する点で名誉棄損と共通しており、19条に含まれると解する。

したがって、19条に性質決定される。

(2)同様に、20条、21条の適用もなく、Xの常居所法である甲国法が準拠法となる。

3.③について

(1)性質決定

著作権侵害に基づく損害賠償については、ベルヌ条約に基づき保護国法が準拠法となるか、17条により不法行為地法となるか問題となる。

ベルヌ条約は、属地主義の原則、内国民待遇の原則のもとで、保護国法を指定しており、これが準拠法となるとも思える。しかし、著作権侵害による損害賠償については、実質的には不法行為による損害賠償なのであり、17条に性質決定すべきと解する。

判例も、著作権侵害にもとづく差止めについては、ベルヌ条約5条(2)により保護国法によるとしているが、損害賠償については17条に性質決定している。

(2)17条本文の趣旨は、被害者にその結果発生地、すなわち法益侵害地における損害の賠償を担保する点にあり、加害者としても予見が可能である点にある。

本件では、著作権侵害は日本と甲国それぞれにおいてなされているから、日本における著作権侵害については日本法が、甲国における著作権侵害については甲国法が準拠法となる。

(3)上述同様、20条及び21条の適用はない。

(4)なお、上記のいずれの場合においても甲国法が適用される場合、特別留保条項(22条)が別途適用される。

設問2小問1

1.実体的公序(民事訴訟法118条3号)

(1)懲罰的損害賠償を認める判決が、実体的公序に反し承認されるか。

(2)自動承認の原則のもと、実質的再審査は原則として許されないが(民事執行法24条4項)、民訴法118条3号は、我が国において貫徹されるべき価値がある場合には、実質的公序に反し承認を認めていない。その判断は、適用結果の耐えがたさ及び内国的関連性の相関により決する。

(3)本件では、慰謝料に加えて3倍もの懲罰的損害賠償が認められているが、我が国ではこれは認められておらず、不法行為の損害の填補という趣旨に反し、適用結果は耐え難いものといえる。

また、Yは日本に常居所地を有しており、請求が認められることの内国的関連性も大きい。

2.したがって、118条3号により懲罰的損害賠償は認められない。

設問3小問2

1.送達の有効性(118条2号)については、①適式性及び②了知可能性により判断する。

2.適式性とは、条約に則った送達がなされていることをいう。

本件では、国際書留郵便によりYに対する直接送達がなされているが、送達条約10条(a)に則っているといえ、これをみたす。

3.了知可能性とは、応訴の時間的余裕があり、かつ識読可能性のあることをいう。

本件では、資料は日本語の翻訳文が添付され、Yにおいて識読することは可能であった。また、対応できる時間的余裕もあったため、了知可能性も認められる。

4.以上、118条2号に反しないため、送達として有効である。

以上

 

コメント

司法試験受験翌週中に作成したため、再現度は80%以上です。

国際私法ここ2,3年で難しくなってる気が……なんかネットに全然国際私法の再現上がっていないので不安です。

第1問について

設問1では累積的適用の処理を誤り、なぜか先決問題を記載してしまう重大なミス…去年先決問題について趣旨・採点実感で怒っていたので、変な忖度をしてしまった……

結果、Cの国籍がわからない…と20分ほど悩んでしまった…終わってますね。

あと、隠れた反致とか出すかね普通……。書き方知らんよ。

第2問について

 著作権とか出すかね普通……。

試験前の二週間はかなりの時間をリーガルクエスト国際私法の暗記に費やしました。昨年の問題では、同書でコラム的に厚く紹介されている判例が出ていたため、今年も同じような出題となるのでは……と思ったからなのですが、実際、同じように著作権のコラムのところが出ましたね。

著作権知財とバッティングしそうだし出ないだろとあまりやっていなかったのでできませんでしたけど。私は「判例」と書いていますが、裁判例のようですね。あぼん。

 

国際私法 第2版 (LEGAL QUEST)

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