平成30年予備試験実務基礎刑事再現答案

第1、設問1

1.判断要素

89号4号該当性を判断するにあたっては、犯罪の性質、証拠の性質及び犯人と証拠の近接性を中心に判断する。

2.思考過程

(1)本件は、窃盗及び器物損壊という重大犯罪であり、Aはか0ナビを売ったのは自分だが、それはBから売却を頼まれたと述べ、その犯人性が争点となっている。

(2)そして、客観的な証拠をみると、Aと身分確認をした男が犯行翌日にV所有のカーナビを売却したことが認定できるが、これだけでは、本件カーナビを窃取したのがAだということは認定できない。そこで、W2供述録取書(甲8号証)が重要となる。

(3)すなわち、W2は、犯行日深夜の4月2日午前4時に、被害車から約5メートルという近さ、かつ、社内ランプが点灯しているという犯人の顔がはっきり見える状況で、犯人と思われる男と1秒もの間目があっている。そして、犯人が車で逃亡する際も、再度顔をしっかりと見ている。その後、検事から30人もの多数の者の写真で面通しをしたところ、W2は12番の男、すなわちAが犯人と同一であると述べており、その信用性は高い。これにより、供述録取書は、犯行当時現場にいた犯人はAという推認が強く働き、犯人性立証について極めて高い証拠価値を有する。

(4)W2は、被害現場の駐車場のすぐ隣に住んでおり、Aが保釈されれば、W2を威迫するなどする可能性もあり、証拠と犯人は近接している。また、供述証拠が変遷すると信用性が低下するおそれがある。

(5)したがって、89条4号該当性が認められる。

第2、設問2

1.①について

(1)類型

316条の15第1項第3号に該当する。

(2)重要性

上記の通り、犯人性の認定にあたっては、W2の供述の信用性が重要な争点となる。そこで、当時W2は本当に犯人を現認できる位置関係であったのかや、午前4時であることから、本当に当時顔がはっきり見れる明るさだったのかなどを確認することが、証明力を判断するのに重要である。

2.②について

(1)類型

316条の15第1項第6号に該当する。

(2)重要性

W2は、検察官への供述の前に、警察官にも状況を供述していると考えられる。そうであれば、より犯行との時間的近接性がある警察官調書の方が記憶が新しい。これとの供述に変遷があるのであれば、W2の供述の信用性がゆらぐため、その証明力を判断するのに重要である。

3.③について

(1)類型

316条の15第1項第6号に該当する。

(2)重要性

当時犯行現場に別の者がいて、W2と異なる供述をしている場合には、W2供述の信用性がゆらぐため、その証明力を判断するのに重要である。

第3、設問3

検察官は、312条に基づき、訴因変更手続を行い、共同正犯の訴因に変更する。

第4、設問4

1.(1)について

(1)結論

間接証拠に当たる。

(2)理由

直接証拠とは、それにより直接最終的な立証命題を証明できる証拠をいう。間接証拠とは、上記立証命題を推認させる間接事実を立証する証拠をいう。

W2供述は、当時現場にいた犯人と思われる男と、写真の12番の男であるAが同一人物であるというものであり、これにより、当時現場にいた男がAであるという事実が直接立証できるため、犯人性に関しては直接証拠といえる。

他方、W2は、犯人が実際に器物損壊及び窃盗に及んでいることは現認していないのであり、Aが犯行現場にいたということを立証してその犯行を推認させるにとどまるため、間接証拠にあたる。

2.(2)について

W2の供述によりAの犯罪事実を立証しようとする場合、W2供述録取書は、公判廷外供述で、かつ、その内容の真実性が問題となる伝聞証拠(320条)にあたる。そして、伝聞例外をみたさないと考えられる。法廷で証人尋問すれば証拠として扱うことができるため、裁判官は釈明を求めたものと考えられる。

3.(3)について

事件が午前4時であり、他に目撃者がいないと思われる状況では、Aが犯罪事実を行ったという事実の立証のため、W2に法廷で直接供述させる必要性が極めて高い。

第5、設問5

1.刑事訴訟法上の問題

316条の32により、公判前整理手続き終了後の証拠調べは原則禁止されるという問題がある。

そこで、弁護人は、領収書の写しを手に入れたのが手続後であったことを疎明する(規則217条の32)。

2.弁護士倫理上の問題点

領収書は、8月28日にVが受領しており、本来であればより早く、取り調べ請求すべきであった(職務基本規定35条)。

 

以上

コメント

評価はEです。不出来シリーズです。

もう内容はよくわからないくらいひどいので、これくらいやってしまうとEというしかコメントはないのですが、逆にこれでもFではありません。

ところで、3時間半の試験でトイレはどうすべきだったのでしょうか…。私は普段2時間までしかトイレは我慢できませんので、実務科目と本試験の選択科目は地獄でした。

平成30年予備試験実務基礎民事再現答案

第1、設問1

1.(1)について

(1)法的手段

Xは、民事保全法23条1項、24条により、Aに対する売買代金債権の処分禁止の仮処分の申立てを行う。

(2)上記により、YはAに対して有する債権を処分できなくなる。Yはこの他にめぼしい資産はなく、上記手段をとらないと、勝訴判決に基づく債務名義を得ても、執行の実効性が担保できない。

2.(2)について

平成27年9月15日付消費貸借契約に基づく100万円の貸金返還請求権、及び履行遅滞に基づく損害賠償請求権の2個

3.(3)について

被告は、原告に対し、100万円及び平成28年10月1日から支払済みまで年5部分の割合による金員を支払え

4.(4)について

(1)法律要件

消費貸借契約(民法587条)の法律要件は、(あ)返還合意(い)金銭給付、返還請求要件として、(う)弁済期合意、(え)弁済期到来である。また、損害賠償請求権の法律要件は、(お)債務不履行、(か)損害である。そして、遅延損害金の起算日は弁済期の翌日である(140条、412条1項)。

(2)具体的事実

ア Xは、Yに対し平成27年9月15日、弁済期平成28年9月30日の約定で100万円を貸し付けた。

イ 平成28年9月30日は経過した。

ウ 説明

アにより、(あ)ないし(う)という、Xの貸金返還請求権の発生を基礎づける主要事実が主張されたこととなる。

イにより、(お)の事実が基礎づけられることとなる。なお、(え)はこれに含まれている。また、損害はすでに主張済みである。

第2、設問2

1.(1)について

平成28年9月30日、消費貸借契約に基づく貸金債務の弁済として、100万円を給付した。

2.(2)(i)について

上記売買代金債権と、貸金債務を相殺する。

3.(2)(ii)について

(1)結論

不要である。

(2)理由

売買契約(555条)は諾成契約の為、引渡しの事実主張は不要である。

第3、設問3

催告がなされたからである。

第4、設問4

1.本件では、平成28年9月30日に弁済の事実があったかが主たる争点であるといえる。以下の通り弁済がなされたといえる。

2.Yが連日50万円を出金した事実

(1)Xが真正を認めた本件通帳においては、平成28年9月28日及び29日にYが50万円ずつ計100万円を出金した事実が認められる。これは貸金債務額と同額であり、かつ、弁済日の前日、前々日である。

(2)通常、このような多額を連日出金することは考えられず、Xへの弁済がなされた事実が合理的に推認できる。

3.YがXに同日食事をごちそうした事実

両者の一致する供述として、平成28年9月30日にYがXに食事をおごった事実が認定できる。この事実は、Yが当時お金に困っていなかったことを推認させ、弁済資力が十分にあったことを推認させる。

4.領収書の存否

(1)領収書の存否については争いがあるが、Yは確かに平成28年9月30日にXから領収書を受け取っている。

(2)もっとも、領収書は手帳を切り取っただけのものであり、また、Yには弁済が終わったという期待が生じるのが当然である。そして、真正が認められた本件住民票から、平成29年8月31日ころYが引っ越しをした事実が認められる。上記のような簡単な形式の領収書であれば、紛失することも不合理とまではいえない。

5.弁済後のXの挙動について

Xが弁済を請求し始めたのは平成29年10月に入ってからであるところ、弁済期から1年も経過している。通常100万円もの大金であれば友人であっても弁済期後すぐに請求するはずである。また、平成29年9月半ばころ、Xは同窓会費を使い込んだ事実をYに指摘され幹事を辞任している。このことから、10月になって恨みをもって請求に及んだものと考えるのが合理的である。

6.以上、Yの弁済の事実が認められる。

以上

コメント

評価はEです。不出来シリーズです。

「実務基礎を制するものは予備試験を制する」(得点が倍なので)というセオリーがあるようなのですが、勉強不足でダメでした。対策は過去問のみです。

仮処分を間違えていたり、設問2の時効の基礎知識すら思いつかなかったりカオスです。第1の4は明らかに余事記載ですし、加えて間違っているので最悪です。

 反面教師にしてください。

平成30年予備試験一般教養再現答案

第1、設問1

1.再配分とは、主に資源と富の再配分により、社会正義を達成するための手段の一つであり、150年来のパラダイムである。

例えば、アメリカにおける富豪であるビルゲイツやバフェットが積極的に寄付を行うことは、再配分にあたる。これは、各人の差異を前提に、その際を平等に近づけていくものである。

2.承認とは、差異を積極的に肯定し、その際を尊重するものである。

例えば、LGBTの方々を、マジョリティと同等にするために何らかの施策をとるのではなく、その存在を尊重するものである。再配分とは異なり、差異それ自体を肯定するものである。

第2、設問2

1.筆者は、再配分と承認のいずれも必要と結論付けている。これは、一見して無関係なものとして挙げられる両者が、実は相互に密接に関係していると考えているからと推察される。

2.私もこれに同意見である。すなわち、再配分と承認、どちらかだけによっても、社会正義は達成することはできない。

再配分という手段では、たしかに両者の平等が志向されるが、これはすでにマジョリティとマイノリティの上下関係を前提としており、マイノリティは対等な経緯を受ける代償としてマジョリティの規範への同化が求められる。

他方、承認だけでは、社会正義の実効性は担保されることはない。

両者は、社会正義という目的を達成するためのツールにすぎない。再配分という縦関係のベクトルと、承認という横関係のベクトルを組み合わせることで、具体的事案における社会正義を検討すべきである。

例えば、METOO運動においても、女性を個人として尊重するだけではなく、働きやすい職場づくり等の施策が必要である。

以上

コメント

評価はEです。不出来シリーズです。

ぶっつけ本番だったので、分量だけ気を付けました。そもそも書き方がわかっていません。

 

平成30年予備試験刑事訴訟法再現答案

第1、設問1

1.①の適法性

(1)いまだ甲には具体的な犯罪の嫌疑はないため、行政警察活動であり、①は所持品検査といえる。この所持品検査が適法か問題となる。

(2)甲がPと目が合うや逃げ出すなど、不審事由が認められ、Pらは甲に対し職務質問を開始(警察官職務執行法2条1項)している。そして、所持品検査については明文がないが、職務質問に付随するものとして必要であり、認められる。もっとも、無限定に認められるものではなく、同法1条2項及び、司法警察活動への以降の観点から、捜索にわたらない程度の所持品検査は、強制にあたらない限り、検査の必要性と、検査を受ける者に生じる、自己の所有物をみだりに見られない事由の権衡を吟味し、具体的状況において相当な限度で認められると解する。

(3)本件では、まずPは服の上からへそ付近を触っただけであり、捜索とも、他の強制処分ともいえない。

(4)J町では、凶器を使用した犯罪が多発しており、所持品を検査することが、重大犯罪の未然防止のために重要である。また、甲が急に逃げ出したことや、そのシャツのへそ付近が不自然に膨らんでいること、Pの右手に堅い物が触れた感触があったことから、甲が腹部に何らかの凶器を隠している疑いが強まっており、所持品検査の必要性は高まっている。

他方、Pは、まず、服の下に何か持っていないか質問をして、これを無視して歩き出した甲に対し、シャツの上からへそ付近を触るという程度の検査をしており、態様も軽微である。したがって、甲の上記自由の侵害もそれ程大きくない。

したがって、本件状況の下では、①の所持品検査は相当なものとして適法である。

2.②の適法性

(1)Pは、甲が薬物犯罪に関する物を有しているとの具体的嫌疑を有しているため、この時点で司法警察活動に移行している。そこで、②が「強制の処分」(刑訴法197条1項但書)にあたらないか問題となる。

(2)「強制の処分」とは、明示または黙示の意思に反し、重要な権利利益を侵害する処分をいう。意思に反して初めて強制といえるし、既に法定されている強制処分がいずれも個人の重要な権利利益を侵害するため、法定主義及び令状主義により厳格に規制する程度のものであることを要するからである。

(3)本件では、甲は「嫌だ」と述べており、その意思に反することは明らかである。また、甲は本件覚せい剤をシャツの下に隠しており、バッグなどに比べても、より秘匿性の高い物として、他人に見られたくないという合理的期待が及んでおり、利益は重要である。

これに対し、Pらは、乙を羽交い絞めにし、無理やりシャツの中に手を差し込んで本件覚せい剤を取り出すなど、その態様は極めて強度であり、実質的には押収(218条)と同視できる。

したがって、上記の重要な利益を強く侵害するものとして、「強制の処分」にあたる。

(4)上述の通り、Pらの行為は捜索差押えにあたるため、令状主義に反し違法である。

第2、設問2

1.違法収集証拠排除法則

本件覚せい剤は違法捜査により取得されたものの、その証拠価値には変動はない。もっとも、司法の無瑕疵性、手続の適正及び違法捜査抑止の観点から、令状主義を没却するような重大な違法があり、将来の違法捜査抑止の観点から証拠排除することが相当であれば、証拠禁止されると解する。

2.本件では、本来であれば、甲に対する令状を取得して捜索をすべきであり、法規からの逸脱の度合いは大きい、また、その態様も著しく強度であり、令状主義を没却する程度の違法が認められる。

たしかに、覚せい剤事犯では、覚せい剤が決定的な証拠となるが、本件のような手続で押収した覚せい剤が証拠として認められると、今後の捜査において、同様の手法がとられることとなり、違法捜査抑止の観点から証拠を排除すべきであるといえる。

3.以上、本件覚せい剤は証拠能力が認められない。

以上

コメント

評価はAです。

②について、司法警察活動にしてしまいましたが、相当程度嫌疑が濃厚でないと司法警察活動に移らないようで、判例の勉強不足です。試験後実例刑事訴訟法を読んで絶望しました。

H28司法試験もですが、この移行のタイミングがわかりづらいところです。ただ、Aであったことや、判断基準はそれほど変わらないことから、あまり大きな傷ではないのでしょう。

平成30年予備試験刑法再現答案

第1、500万円を乙に渡した行為

1.甲について横領罪(刑法(以下略)252条1項)の成否

(1)物の処分可能性の誘因的見地から、「自己の占有する」とは、物を事実上又は法律上占有することをいい、かつ、委託関係に基づくことを要する。

本件では、甲は会社を立ち上げ投資をするとして、Vから500万円を預かっている。そしてその500万円は甲の銀行口座において保管がされているため、委託関係に基づいて法律上占有しているといえる。

(2)「他人の物」かは、刑法上の要保護性を加味して判断する。

たしかに、金銭は民法上占有と所有が一致するが、刑法において取引の安全を考慮する必要はない。また、500万円は投資という使途がきめられており、かつ預金証書もV保有であるため、いまだVに所有権が認められる。

(3)「横領」とは、所有権侵害のおそれがあり、かつ、不法領得の意思(委託の趣旨に反し、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思)の発現行為をいう。

本件では、甲は投資という委託の趣旨に反し、自己の債務返済目的で500万円をVに渡しており、不法両得の意思が発現している。そして所有権侵害のおそれも生じており、上記引渡時点で「横領」が認められる。

(4)故意に欠けるところもなく、甲に、横領罪が成立する。

2.乙は、上記受取時点で善意であり、何らの罪も成立しない。

第2、Vにナイフを突き付けて債権放棄させた行為

1.両名について、強盗罪の共同正犯(60条、236条2項)の成否

(1)共同正犯は、共謀及びこれに基づく実行により成立する。

(2)本件では、甲乙に、「Vにナイフを突き付けて500万円の債権を放棄させる」点についての共謀が成立している。

(3)強盗罪の「脅迫」は、客観的に犯行を抑圧する程度のものであることを要する。

本件では、まず、両名は、甲の準備したナイフをVに示して念書の作成を迫っている。通常ナイフを突きつけられれば、相当の恐怖を覚えるものといえる。

また、その後乙はVの胸倉をつかんで喉元にナイフを突き付けており、その態様は極めて強度なものであるといえる。 

したがって、「脅迫」が認められる。

なお、乙の上記行為は、「10万円払え」との意図の下でなされているが、Vから金銭的利益を得るという動機が同一であり、当初共謀の射程内である。

(4)上記脅迫により、Vは念書を作成して甲に渡している。もっとも、2項強盗は利益が不可視であり、処罰範囲が広がるおそれがあるため、利益の具体性及び現実性が必要である。

本件では、念書により、甲が500万円の債務を負わないという具体的な利益が、現実に移転しているといえ、これをみたす。

(5)故意及び不法領得の意思に欠けるところもなく、2項強盗罪の共同正犯が成立する。

第3、Vから現金10万円を取得した行為

1.乙について強盗罪(236条1項)の成否

(1)乙の上記行為が強盗か窃盗かは、反抗抑圧後の財物奪取に再度の脅迫を要するかによる。

(2)強盗罪は、反抗抑圧に至る程度の暴行脅迫を手段として物を強取する犯罪であり、原則として、新たな暴行脅迫が必要である。もっともすでに反抗抑圧されている者に対してはその状態を維持する程度のもので足りる。

本件では、Vはなんらの行為も行っていないとも思えるが、乙としては、先程喉元にナイフを突き付けた乙が戻ってきただけで相当の恐怖を覚えるのが通常である。したがって、乙により黙示の脅迫がなされ、反抗抑圧状態が維持されたといえるため、「脅迫」が認められる。

(3)「強取」、故意及び不法領得の意思に欠けるところもなく、乙に強盗罪が成立する。

2.乙に強盗罪の共同正犯の成否(60条、236条1項)

(1)たしかに当初共謀には、10万円をVから取得することについては含まれていない。しかし、Vから金銭的利益を得るというところまで抽象化すれば共謀の射程内とも思える。そこで、甲が共謀から離脱したといえないか。

(2)共犯の本質は因果性にあるため、物理的心理的に因果を遮断できれば、離脱が認められると解する。

本件では、乙がVに10万円を払わせようと甲持ちかけたところ、甲は「もうやめよう」と述べ、乙の手を引いて外へ連れ出し、自己の準備したナイフを取り上げている。これにより、犯行の物理的因果性は遮断されたといえる。

また、当初の計画でも甲は「絶対に手を出すなよ」と述べ、また、現場でも「念書が取れたんだからいいだろ、もうやめよう、手を出さないでくれと言ったはずだ」と言って、乙の犯行を止めている。このように、積極的に因果の流れを止めているので、心理的な因果性も遮断しているといえる。

(3)以上、甲は乙の行為について何ら罪は成立しない。

第4、罪数

1.甲については、横領罪及び2項強盗罪の共同正犯が成立し、併合罪となる(45条前段)。

2.乙については、2項強盗罪の共同正犯及び1項強盗罪が成立し、両者は実質的に同一の法益を侵害するものとして包括して一罪となる。

以上

コメント

評価はAです。

500万円を乙に渡した甲の行為については、まず、業務上横領罪を落としていますが、大きな傷にはならなかったようです。

また、銀行口座に対する占有については、証書がV保有であることから、もっと慎重に認定すべきでした。不法領得の意思の発現時期(既遂時期)についてはしっかり書けています。詐欺を成立させなかったのもよかったと思います。

債権放棄の点についても、暴行脅迫の程度、2項強盗についての利益の現実性具体性、犯行抑圧後の財物奪取、共謀の射程や共同正犯からの離脱など、基本的なことをわかりやすく書けたと思います。

 

平成30年予備試験民事訴訟法再現答案

第1、設問1

1.同時審判申出訴訟(民訴法(以下略)41条)

(1)Xは、YとZからの両負けを防ぐために、同時審判申出訴訟を提起することが考えられる。

(2)同条の趣旨は、原告の両負けを防ぐ点にあるから、「法律上併存しない関係」とは、両請求が実体法上両立しない関係にあることをいう。

(3)本件では、XはYところ、両者は債権契約であり、当然両立しうるため、実体法上両立しないとはいえない。

(4)したがって、同時審判申出訴訟は提起し得ない。

2.主観的予備的併合

(1)そこで、XはYへの請求が認容されることを解除条件として、Zを予備的被告とすることが考えられる。

(2)主観的予備的併合は、明文もなく、予備的被告の地位を不安定とするため原則として認められない。もっとも、これを認める高度の必要性があり、かつ、予備的被告の地位が不安定とならない場合には、認めてもよいと解する。

(3)本件では、通常共同訴訟を提起しても、ZがYが買主であると主張することが考えられ、Xには両負けのおそれが生じてしまうのであり、高度の必要性が認められる。また、YはZの代表取締役であり、訴訟代理人となるため、Zの訴訟においてもYが対応することとなり、その地位が不安定となることはない。

(4)したがって、両負けを防止するために、主観的予備的併合を認めることが、Xの要望に最もかなう手段であるといえる。

第2、設問2

1.結論

Xは後訴で判決の効力を用いることが可能である。

2.理由

(1)XはZに対して訴訟告知(53条)をしている。これにより、「参加することができる第三者」であるZには、参加的効力(⑤3条4項、46条)が及ぶこととなる。

(2)参加的効力の趣旨は、敗訴責任の分担にあること、及び46条は除外事由を定めていることから、参加的効力は、既判力と異なり、告知人と被告知人との間に生じる効力であって、主文のみならず、主文を導くために必要な主要事実に係る判断についても及ぶ。

(3)本件では、XのYに対する請求は、売買契約に基づく代金引渡請求権であり、その不存在について既判力が生じている。また、その主要事実は、XY売買契約の締結であるところ、XYの売買契約の不存在という主文を導くために、裁判所はXZの売買契約存在を認定しており、主要事実として参加的効力を生じている。

(4)したがって、XはZに対する請求において、XZの売買契約の存在という効力を主張することができる。

第3、設問3

1.弁論の併合・分離については、原則として裁判所に裁量が認められる(152条1項)。その趣旨は、円滑な裁判の運営にあると解される。もっとも、本件ではその逸脱にあたる。

2.本件では、買主がYかZかという点が主要な争点であり、かつ、YとZは実質的には同一であるといえる。そうだとすれば弁論を併合し審理を進めた方が、証拠の流用の観点(152条2項参照)から、本当に応接間に本件絵画がかけられているのか、Zの資金による購入だったのか、領収書を保有しているか等をZ代表者としてのYに本人尋問(211条、207条)することで、統一的かつ円滑に裁判を運営することができる。

3.したがって、本件分離は裁量の逸脱といえる。

以上

コメント

 

受験科目の中で一番ひどい出来でしたが、評価はBでした。

こんなにひどくてもBという見方もできます。あくまでも相対試験なので、「自分ができないときはみんなできない」ところまで持っていければ安心の試験です。

 

設問1では、要件事実がうまく整理できず、代理の抗弁を知らなかったことから、同時審判申出訴訟を否定してしまいました。

他方で、主観的予備的併合も実体法上両立しない場合が要件なのにもかかわらず認めてしまいました。このあたりは無理解を露呈しています。

設問2の参加的効力についても基礎がわかっていません*1

同時審判申出共同訴訟や参加的効力については規範を暗記していたのですが、全く使えない知識を暗記していても無意味と痛感しました。

設問3のような問題は、みんな知らないのでサービス問題です。三段論法をしっかり組めば問題ないでしょう。

*1:一応整理すると、2段階チェックが必要で、判例は①まず補助参加の利益を認めていないのでそのチェックをすること、②次に判例は傍論だけど、主文を導く主要事実に係る判断(理由中の判断)にしか及ばないとしているのでそのチェックをすること。なお、参加的効力は主文を導くために主張されたブロックダイアグラム全部に生じること(多分…)に注意します。なお、H24で聞かれたような、協同できるかどうかで参加的効力が生じるか判断するという主張についてはよくわかりません。

平成30年予備試験会社法再現答案

第1、設問1

1.株主提案権(303条1項)及び議題通知請求権(305条1項)は、行使要件が規定されている。Dは6か月以上前から甲社株1万株を有しており、甲社は100単元をもって1単元とする定款の定めがあるため、100個の議決権を有し、持株比率は1%であるところ、303条2項及び305条1項かっこ書きは、100分の1の持株要件を定めており、基準日(3月31日)時点ではDはこれをみたしている。一方で、基準日後に甲社は20万株の新株発行をしており、Dは株主総会前に持株要件を欠いている。なお、124条は適用されない。株主提案権は「議決権」そのものではないからである。

そこで、持株要件はいつまで充足している必要があるか問題となる。

2.株主提案権は、株主の議決権を前提とするため、持株要件は権利行使時だけではなく、株主総会終結時まで保有していなければならないと解する。もっとも、常にそのように解すると、提案権行使妨害のおそれがあるため、会社が権利行使妨害目的で株式を発行し持株要件を欠いたような場合は、基準時に持株要件を満たしていれば足りる。

3.本件では、株主総会時点では、丙社に新株発行がされたことでDは株主提案権の要件を満たしていない。そして、発行も積極的な事業拡大が目的であり、Dの提案権行使を妨害する目的であったとはいえない。

4.したがって、Dは、「100分の1以上の議決権」を有するとはいえず、甲社が株主総会招集通知に議題及び議案の容量を記載しなかったことは妥当である。

第2、設問2

1.Bの423条1項に基づく損害賠償請求権が問題となる。

2.Bは取締役であり「役員等」にあたる。

3.「任務を怠った」かについては、直接取引(356条1項2号)該当性が問題となる。

(1)3号との対比から、2号の「自己又は第三者のため」とは、名義によって判断する。

本件では、Bは、丁社の全持分を有しており、事実上の主宰者として、「自己」のために取引をしたといえる。

(2)そして、本件賃貸借契約における賃料は、周辺の相場の2倍であり、1年分の賃料300万円と150万円の差額合計1800万円という「損害」が生じており、任務懈怠が推定される(423条3項1号)。そして、甲社は監査当委員会設置会社であるが、監査等委員会の承認も受けていない(同4項)。

4.本件取引はBが自己のためにしたものであり、無過失責任となる(428条1項本文)。Bは責任限定契約を締結しているが(427条)、428条2項により適用されない。

5.以上、Bは甲社に対して1800万円の支払義務を負う。

以上

 

コメント

 

評価はBでした。

ナンバリングがへたくそなこと、設問1は筋を違えていること、設問2で悪意重過失の認定が嫌だったので競業取引の「事実上の主宰者」に寄せて直接取引に持っていったことが悪かったように思うのですがBでとどまったので、よく言われるように受験生は会社法の勉強が遅れがちなのかもしれませんね。